公的な無料相談はどこまで聞けるのか|一般的な案内と、正式な依頼(代理)の境目
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立の無料相談に行ってみたものの、「そこは専門家にご相談ください」と言われて終わった、という経験がある方。なぜそう言われるのかを知りたい方。
- 公的な窓口をこれから使うつもりで、何を聞けば答えてもらえて、何は無理なのかを先に知っておきたい方。
- この記事では、相談と依頼の境目を条文から確かめます。窓口の対応を批判するものではありません。線がどこにあるかを知っておけば、無料相談はもっと使いやすくなります。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
1「相談できる」と「依頼できる」は、別のことです

会社設立の無料相談を使うときに、最初に整理しておきたいことがあります。相談と依頼は別のものだということです。日常の言葉づかいでは近く聞こえますが、この二つの間にははっきりした線があり、会社設立の相談ではその線に何度も行き当たります。

この線がどこから来ているのかというと、士業の業務を定めた法律です。登記の申請を代理することと、法務局に提出する書類を作成することは司法書士(と弁護士)の業務で、報酬を得て業として行えるのはその人たちだけです。税務は税理士、社会保険は社会保険労務士、というように分かれています。
会社設立の無料相談で「そこは専門家にご相談ください」と返ってくることがあります。これは、その場で答えると代理や個別の判断に踏み込んでしまうからです。窓口の方が不親切なわけでも、知らないわけでもありません。線がどこにあるかを知っておくと、この返答の意味が分かります。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
2窓口が答えられるのは、一般的な案内までです

では実際のところ、どこまでが「一般的な案内」なのでしょうか。分かりやすいのは、会社設立について聞きたいことを質問の形に置き換えて考えることです。同じ内容でも、聞き方によって答えられる質問になったり、答えられない質問になったりします。

会社設立でよくあるのは、「私の場合はどうすればいいですか」という聞き方です。気持ちとしては自然なのですが、これは個別の判断を求める質問になります。「一般には、どういう考え方があるのでしょうか」と置き換えると、答えが返ってくることが多くなります。
法務局の登記手続案内も同じです。商業・法人登記の申請の手続について案内を受けられますが、書類を作ってもらったり、内容が通るかどうかを保証してもらったりはできません。会社設立の申請書の様式と記載例が公開されているのは、ご自身で作ることが前提になっているからです。
士業の独占業務の決まりは、他人の依頼を受け、報酬を得て、業として行う場合に働きます。ご自身が、ご自身の会社のために手続きをすることは、この決まりの外です。当サイトでは手順そのものは扱いませんが、本人申請は合法で、現実的な選択肢のひとつです。
出典商業・法人登記申請手続(法務局)
3代理とは何か。誰が代理できるのか

ここで言う代理とは、本人に代わって手続きを行うことです。会社設立でいえば、設立登記の申請を代わりに出す、定款を作る、税務の届出を代わりに提出する、といった行為が当たります。会社設立の手続きの多くが、この代理という言葉に関わってきます。これらを報酬を得て業として行える人は、それぞれの法律で決まっています。

罰則も定められています。司法書士法73条1項に違反した場合は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(同法78条1項)、行政書士法19条1項に違反した場合は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(同法21条の2)、税理士法52条に違反した場合は2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(同法59条1項4号)です。2025年6月1日から「懲役」は「拘禁刑」に変わっていますので、古い記事の表記には注意してください。
公的な窓口はこの線を越えません。気をつけたいのは、会社設立の無料相談をうたって、資格の説明がないまま書類の作成や申請の代行を持ちかける案内です。当サイトは特定の業者を名指ししませんが、誰がどの資格で担当するのかを確かめるという形で身を守れます。答えられない相手であれば、そこで止めておくのが安全です。
出典行政書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2026年5月21日施行の改正で条がずれた。現行は1条の3が業務、1条の4が代理等、1条の2は職責。19条1項違反の罰則は21条の2(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
4税務の相談は、どこまでが窓口の範囲か

会社設立の相談で線がとくに分かりにくいのが、税務です。会社設立の前後には税務の話が何度も出てきます。税理士法2条1項は、税務代理(1号)、税務書類の作成(2号)、税務相談(3号)の三つを税理士の業務としています。相談そのものが業務に入っているのが、ほかの資格と違うところです。
では、税務のことは公的な窓口では何も聞けないのかというと、そうではありません。制度の一般的な案内と、様式・提出先・期限の確認は、一次情報を読めば分かりますし、窓口でも案内されています。線が引かれるのは、課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずるところからです。
会社設立の場面では、資本金の額と決算期の決め方が典型的な相談の対象になります。どちらも登記が終わってからでは変えにくいものです。ここを個別に相談したいのであれば、税理士への依頼になります。設立後に顧問を付けるつもりがあるなら、その相手に設立前から相談するという進め方もできます。
税理士事務所や司法書士事務所が、初回の相談を無料としている場合があります。これは公的な窓口とは別のもので、依頼につながる商談の入口です。悪いことではありませんが、公的な窓口と同じものだと思って行くと、話の進み方が違って戸惑うかもしれません。無料の範囲と、そこから先の費用を、最初に確かめてください。
出典税理士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項が業務(1号税務代理・2号税務書類の作成・3号税務相談)、3条1項4号が公認会計士の資格、51条が弁護士の通知、52条が業務の制限、59条1項が罰則(2年以下の拘禁刑又は1…
5社会保険と労働保険は、どこに聞けばよいか

会社設立のあとに必ず出てくるのが、社会保険の手続きです。法人は代表者ひとりであっても、健康保険と厚生年金保険の適用事業所になります。「従業員がいないから関係ない」とはなりません。新規適用の届出について、日本年金機構が手続の案内と様式を公開しています。
会社設立のあとに人を雇う場合には、労働保険(労災保険と雇用保険)の手続きも加わります。労働保険の成立手続については厚生労働省と各労働局が案内しています。どちらも、手続の一般的な案内は公的な窓口で受けられます。

表のとおり、どの手続きも、案内は公的な窓口で受けられ、本人が行うこともできます。変わるのは、報酬を得て業として代わりに行える人が誰か、という点だけです。会社設立を進めるときは、この表の右の列を見ながら、どこを依頼するかを決めていくことになります。
顧問の税理士に「社会保険もお願いします」と頼んでも、それは税理士の業務ではありません。社会保険労務士法2条1項の事務は、社会保険労務士でない者が報酬を得て業として行うことを27条が禁じています。提携している社会保険労務士を紹介してもらうのが通常の形です。
出典新規適用の手続き(日本年金機構)
6無料相談を使いこなすための、持ち物と聞き方

線の位置が分かったところで、公的な無料相談を有効に使うための実際的な話をします。準備と聞き方の二つです。会社設立の相談は一度で終わらないことも多いので、毎回の時間を無駄にしない工夫が効いてきます。
- 決まっていることを書き出す会社の名前の候補、始めたい事業、いつ頃始めたいか、出資する人は誰か。決まっていないことは決まっていないと書けば十分です。
- 聞きたいことを三つに絞る限られた時間で全部は聞けません。いちばん引っかかっているところから順に並べておきます。
- 一般的な形で聞く「私の場合は」ではなく「一般には」。この置き換えだけで、答えられる質問になることが多くあります。
- 答えは持ち帰って自分で判断する窓口は判断を代わってくれません。判断の材料をもらう場所だと考えてください。
もうひとつ、聞いておくと役に立つのが「これは誰に頼む話ですか」という質問です。会社設立には複数の専門家が関わり、担当の分野もそれぞれ違います。自分がいま抱えている疑問が、どの資格の分野の話なのかを教えてもらえるだけでも、次に進みやすくなります。
公的な窓口は、特定の依頼先に誘導する場所ではありません。相談だけで終わらせて構いません。そのうえで、自分で手続きするのか、どこから依頼するのかを決めてください。会社設立を自分で進めることも、専門家に依頼することも、どちらも普通の選択です。
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7相談から依頼に切り替える場面

相談を重ねていくと、ここから先は自分では難しいという場所が見えてきます。そこが依頼に切り替える場面です。会社設立の場合、切り替えが起きやすいのは次のようなところです。
大事なのは、全部を依頼する必要はないということです。定款まで自分で作って登記から依頼する、登記だけを依頼して税務の届出は自分で出す、といった分け方もできます。相談の中で「どこまでを自分でやるか」の線を引いてから、依頼の見積もりを取るのが効率的です。
依頼先を選ぶときには、資格の確認もしておいてください。税理士は日本税理士会連合会の税理士情報検索サイト、司法書士は日本司法書士会連合会の司法書士検索、行政書士は日本行政書士会連合会の会員検索で、登録されているかどうかを確かめられます。
窓口によっては、士業会の相談窓口を案内してくれることもあります。ただし、特定の事務所を推薦する場所ではありません。依頼先は、複数から見積もりを取って、対応の範囲と条件を見比べて決めることになります。当サイトも、特定の事務所の比較や順位付けはしていません。
出典税理士に相談する(日本税理士会連合会)
8まとめ|線を知れば、無料相談は使いやすくなります

公的な無料相談でどこまで聞けるのか、という話をまとめます。
- 窓口が引き受けるのは案内まで制度と手続の一般的な説明、様式と提出先の案内。書類の作成と申請の代理は行いません。
- 線を引いているのは法律登記は司法書士と弁護士、税務は税理士、社会保険は社会保険労務士、許認可は行政書士。業として行える人が決まっています。
- 聞き方で答えが変わる「私の場合は」を「一般には」に置き換えると、答えが返ってくることが多くなります。
- 本人が手続きするのは自由独占業務の決まりは、報酬を得て業として行う場合の話です。本人申請は合法です。
- 全部を依頼しなくてよいどこまでを自分でやるかの線を引いてから、依頼の見積もりを取ります。
- 資格は会員検索で確かめられる各団体が公式の検索を公開しています。依頼の前に確認できます。
公的な窓口は、会社設立の全体像を費用をかけずに把握できる、貴重な場所です。会社設立を決めきれずに止まっている段階でこそ使い道があります。線を知らずに使うと物足りなく感じ、線を知って使うと役に立つ、という性格のものだと思います。この記事が、その線の位置を確かめる手がかりになれば幸いです。
制度も条文も改正されます。この記事の内容は2026年9月1日時点で確認したものです。実際に判断されるときは、各セクションに添えた出典で最新の内容をご確認ください。個別の依頼の可否については、司法書士・税理士・行政書士・社会保険労務士といった各分野の専門家に直接ご相談ください。
出典創業・スタートアップ支援(中小企業庁) ページ名は「創業・起業支援」ではない。
線を知っていれば、無料相談は使えます
「そこは専門家に」と言われるのは、担当の方が不親切だからではありません。業として代理や書類の作成を行える人が法律で決まっているからです。この線を知ったうえで質問を組み立てれば、公的な無料相談はかなり役に立ちます。
使い方の要点は二つです。ひとつは、一般的な形で聞くこと。「この場合はどうすればいいですか」ではなく「一般にどういう選択肢がありますか」と聞くと、答えられる形になります。もうひとつは、答えを持ち帰って自分で判断すること。窓口は判断を代わってはくれません。
そして、代理が必要になった時点で依頼に切り替えます。登記は司法書士、税務は税理士、許認可は行政書士、社会保険は社会保険労務士。会社設立でどこまでを自分でやり、どこからを頼むかは、相談の中で見えてくることが多いと思います。個別の判断は、依頼先の専門家に直接ご相談ください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。