完全オンライン申請とは何か|遠方の事務所に会社設立を依頼するとき、管轄はどこになるのか
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立を任せる専門家を探していて、住んでいる場所から遠い事務所に頼んでも大丈夫なのかが分からず決めかねている方。
- 「完全オンライン申請」「24時間以内処理」という言葉を目にして、それが自分の会社設立にどう関係するのかを知りたい方。
- この記事では、ご自身でオンライン申請をする手順は扱いません。書いているのは、申請先の管轄がどう決まっているかと、遠隔での依頼を考えるときに確かめておける点です。特定の事務所やサービスの比較・順位付けもしていません。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
遠方に依頼できるか。職域と管轄を分けて考える

会社設立を遠方の事務所に依頼できるかを考えるとき、二つのことが混ざりがちです。ひとつは誰に何を頼めるか(職域)、もうひとつは手続きをどこに出すか(管轄)です。前者は資格の話、後者は場所の話で、まったく別のものです。
まず職域のほうから確かめます。会社設立の各手続きは、それぞれの法律で担当できる資格が決まっています。この線引きは、事務所が近くにあっても遠くにあっても変わりません。

士業に地域の縛りがあるわけではありません。司法書士も行政書士も税理士も、専門家として全国の案件を扱えます。ですから、遠方の事務所に会社設立を依頼すること自体に制度上の問題はありません。問題になるとすれば、そこから先の管轄の話と、書類のやり取りにかかる時間のほうです。
ここで書いている「できる・できない」は、報酬をもらって業として行えるかどうかです。会社設立の手続きをご自身で行うことは、どの資格がなくてもできます。法務省も本人が申請するための案内を出しています。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
登記の申請先は、本店の所在地を管轄する法務局

会社設立の登記をどこに申請するかは、会社法が起点になります。株式会社について49条が、持分会社について579条が、それぞれ次のように定めています。
第四十九条 株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
第五百七十九条 持分会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
本店の所在地において設立の登記をする。ここから、申請先は本店の所在地を管轄する法務局(登記所)になります。法務省も、登記の申請方法についての問い合わせ先として「本店所在地を管轄する法務局」を案内しています。
つまり、東京の事務所に依頼しても、大阪に本店を置く会社の設立登記は大阪の管轄の登記所に出されます。依頼先の所在地と申請先は無関係です。オンラインで申請する場合も同じで、送信先の登記所は本店の所在地の管轄になります。
オンラインで申請した場合、会社の設立の日は登記所で受付された日になります。登記所の受付時間は平日の8時30分から17時15分までで、それ以降や休日に送信された分は翌業務日の受付です。会社設立の日にこだわりがあるなら、依頼するときに伝えておいてください。
なお、本店をどこに置くかは会社設立の前に決めることです。決めたあとで変えると変更登記が必要になり、そのつど登録免許税がかかります。遠隔で依頼するかどうかとは別に、本店の場所は先に固めておくほうが手戻りがありません。
出典商業・法人登記申請手続(法務局)
定款を認証できる公証人にも、管轄があります

株式会社の会社設立でもうひとつ効いてくるのが、定款を認証できる公証人の管轄です。ここは見落とされやすいので、独立して置いておきます。
日本公証人連合会は「定款の認証は、会社の本店の所在地を管轄する法務局又は地方法務局に所属する公証人しかできません(公証人法62条ノ2)」と案内しています。公証人が職務を行える区域は、その公証人が所属する法務局または地方法務局の管轄区域によります(公証人法17条)。そして、管轄区域外の公証人がした定款の認証は無効になると明記されています。
定款認証が必要なのは株式会社などで、合同会社には必要ありません。会社設立で合同会社を選んだ場合、公証人の管轄という論点そのものが発生しません。遠方の事務所に依頼するときの確認事項も、そのぶん少なくなります。
依頼する側から見ると、公証人の手配は依頼先が段取りする部分です。とはいえ、株式会社の会社設立では公証役場の管轄が本店の所在地で決まることを知っておくと、遠方の事務所に頼んだときに「なぜこの地域の公証役場なのか」で迷わずに済みます。
出典9-4 定款認証(日本公証人連合会) 拡張子・末尾スラッシュなしが実効URL。
完全オンライン申請とは何か

法務省は、オンラインによる法人設立登記のうち一定の条件を満たすものについて、原則として24時間以内に登記を完了する運用を行っています。2020年3月17日から始まったもので、対象は株式会社と合同会社の設立登記です。
対象になる条件は四つです。ひとつでも欠けると対象外になります。
- 役員等が5人以内であること。株式会社の場合は設立時取締役・設立時会計参与・設立時監査役・設立時会計監査人といった設立時役員等が5人以内、合同会社の場合は業務執行社員が5人以内です。
- 添付書面情報(定款、発起人の同意書、就任承諾書等)がすべて電磁的記録で作成され、申請書情報とあわせて送信されていること。これが「完全オンライン申請」と呼ばれる部分です。オンライン申請であっても、添付書面を登記所に持参または送付する場合は対象になりません。
- 登録免許税の納付が収入印紙ではなく電子納付であること。電子納付が遅れると登記の完了も遅くなる可能性があります。
- 補正がないこと。補正とは、申請の不備を登記官からの連絡にもとづいて事後的に是正することです。

電磁的記録で作成した添付書面情報を送信するには、作成者の電子署名が付いている必要があります。株式会社の電子定款であれば、作成者と認証者の両方の電子署名です。法務省は、一人株式会社または一人合同会社であれば公的個人認証サービスの電子証明書を取得することで、申請書情報とすべての添付書面情報に電子署名を付けられると案内しています。
法務省は「登記申請件数の多い時期を除き」と断ったうえで、受け付けた時点から起算して原則24時間以内に完了するとしています。補正が出れば対象から外れます。会社設立の日程を組むときは、この前提を含めて考えてください。当サイトでは、確認できない日数は書いていません。
出典完全オンライン申請による法人設立登記の24時間以内処理について(法務省)
テレビ電話による定款認証で、移動が減りました

株式会社の会社設立では、定款の認証のときに公証人による本人確認が行われます。ここが対面でしかできないと、遠隔での依頼はかなり不便になります。この点について日本公証人連合会は、テレビ電話を利用すれば公証役場に出向かなくても電子定款の面前確認ができると案内しています。
- テレビ電話の利用そのものは無料です。ただしインターネットの接続やモバイル通信にかかる費用は利用する側の負担になります。
- 予約制です。電子メールまたは予約申込みのフォームから申し込み、公証役場から決まった日時が返ってきます。
- 予約した日時に、届いたメールに書かれている接続用のリンクを開くと通話の画面が立ち上がります。
- 顔写真付きの公的な身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、住民基本台帳カード、旅券、在留カードなど)のうち、いずれか一つを用意します。
- インターネットの接続環境と、カメラ・マイクの使える端末が必要です。
ただし、テレビ電話が使えても公証人の管轄は動きません。認証をするのは、あくまで本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人です。テレビ電話は移動をなくすもので、管轄を広げるものではない、と理解しておくと混乱がありません。
公証人のうちで電子公証の制度に対応できるのは、法務大臣によって特に指定された指定公証人です。どの公証役場に指定公証人がいるかは、日本公証人連合会の公証役場一覧で確かめられます。会社設立を依頼した場合、この手配は依頼先が行いますので、依頼する側が調べておく必要はありません。
なお、日本公証人連合会は小規模でシンプルな形態の株式会社について定款の作成を支援するツールを公開しており、東京都と福岡県の公証役場では、このツールを利用した場合に48時間以内に認証手続を完了させる試行を行っていると案内しています。会社設立の進み方は、こうした運用でも変わってきます。
出典テレビ電話で電子定款の面前確認ができます(日本公証人連合会(公証役場一覧)) 公証役場に出向かずテレビ電話で電子定款の面前確認を受ける手順・必要環境・本人確認書類
遠方の事務所に依頼すると、実務でどこが変わるか

ここまでを踏まえると、遠方の事務所に会社設立を依頼したときに変わるのは、手続きの中身ではなく書類の動き方と日程の取り方だと分かります。

見積書の見方は、近くでも遠方でも同じです
報酬は事務所によって異なります。遠方だから高い、近いから安いという決まりはありません。確かめるのは、実費と報酬が分かれているか、どこまでが依頼の範囲か、追加になりやすい項目は何か、という三点です。登録免許税や定款認証の手数料といった実費は、どの専門家に依頼しても、ご自身で手続きしても同じ額です。
報酬の目安としては、日本司法書士会連合会の報酬アンケート(2024年3月実施)が、発起人2名・資本金500万円の株式会社の発起設立で定款認証手続と登記申請の代理を含む設例について、有効回答932件・平均107,887円という数値を公表しています。日本行政書士会連合会の報酬額統計調査(令和7年度)は「会社設立手続」として回答287件・平均106,371円・最頻値110,000円・最小7,000円・最大550,000円としています。いずれも幅で見るための数値で、地区別の相場を示すものではありません。
出典法務省:一人会社の設立登記申請は完全オンライン申請がおすすめです!(法務省) 一人株式会社・一人合同会社は公的個人認証サービス電子証明書で全添付書面に電子署名でき、完全オンライン申請が可能
近くの事務所と遠方の事務所、どちらを選ぶか

会社設立の依頼先を近くから選ぶか遠方から選ぶかに、正解はありません。距離は判断材料のひとつで、それだけで決める必要はないというのが実際のところです。判断のときに見ておくとよい点を並べます。
- 連絡の取りやすさ返信までにどれくらいかかるか、連絡の手段は何か。遠方であるほど、ここの重みが増します。
- 対応の範囲登記だけか、定款の作成から含むか、税務や社会保険の相談先を紹介してもらえるか。範囲の外は別の専門家に回ります。
- 電子定款になるか紙の定款だと収入印紙4万円がかかります。実費が変わる項目です。
- 書類の受け渡し郵送が何回発生するか。急ぐなら日程に足しておきます。
- 設立後のこと許認可が要る業種なら行政書士、顧問を付けるなら税理士、人を雇うなら社会保険労務士。会社設立のあとに続く相談先も考えておくと決めやすくなります。
- 資格の確認各団体の会員検索で、登録されている専門家かどうかを確かめられます。遠方だからこそ押さえておきたい項目です。
近ければ書類を直接持ち込めますし、地域の許認可の窓口に詳しいこともあります。遠方でも、扱っている案件の傾向が合えば依頼する意味は十分にあります。当サイトでは特定の事務所やサービスを比較したり、順位を付けたりはしていません。複数から見積もりを取って、対応の範囲と説明の分かりやすさで判断してください。
それから、会社設立の手続きをご自身で進める選択肢も残っています。法務省は株式会社・合同会社それぞれについてオンライン申請の案内ページを用意しており、登記・供託オンライン申請システムで使う無料のソフトも公開されています。本人申請は合法で、脅すような話ではありません。時間と手間をどう配分するかという判断です。
出典会社設立手続きは司法書士に依頼できる?法人設立の相談先の選び方(弥生) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
まとめ|依頼先は全国から、申請先は本店の管轄から

完全オンライン申請と遠方への依頼について、条文と一次情報から確かめられたことをまとめます。
- 依頼先は全国から選べる士業に地域の縛りはありません。会社設立を遠方の事務所に依頼すること自体に制度上の問題はありません。
- 登記の申請先は本店の管轄会社法49条・579条により、会社は本店の所在地において設立の登記をすることによって成立します。申請先は本店の所在地を管轄する法務局です。
- 公証人にも管轄がある株式会社の定款を認証できるのは、本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人だけです。管轄区域外の認証は無効です。合同会社には認証が要りません。
- 完全オンライン申請添付書面情報をすべて電磁的記録で作成して申請書情報とあわせて送信する形です。役員等5人以内、電子納付、補正なしという条件を満たすと、原則24時間以内の処理の対象になります。
- テレビ電話による認証公証役場に出向かずに面前確認を受けられます。移動はなくなりますが、管轄は動きません。
- 変わるのは書類の動き方遠方に依頼して変わるのは、郵便の往復と日程の取り方です。手続きの中身は変わりません。
- 実費は同じ登録免許税や定款認証の手数料は、誰に依頼しても、ご自身で手続きしても同じ額です。
会社設立の依頼先を距離で諦める必要はなくなりました。ただ、遠隔にしたぶん、事前に確かめる項目は増えています。打ち合わせの方法、書類の受け渡し、日程の余裕。この三つを最初に聞いておけば、遠方の専門家に依頼しても進め方で困ることは少ないはずです。
この記事の内容は2026年9月1日時点で確認したものです。運用も制度も変わります。実際に会社設立を進められるときは、各セクションに添えた出典で最新の案内をご確認ください。個別の依頼の可否や見積もりの妥当性については、司法書士・行政書士といった各分野の専門家に直接ご相談ください。
出典登記・供託オンライン申請システム(法務省)
動かせるのは依頼先。動かせないのは管轄です
遠方の事務所に会社設立を依頼できるかという問いは、動かせるものと動かせないものを分けるとすっきりします。依頼先は全国から選べます。打ち合わせも面前確認も遠隔で進められる場面が増えました。一方で、登記の申請先は本店の所在地を管轄する法務局ですし、株式会社の定款を認証できるのも本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人だけです。ここは依頼先を変えても動きません。
そして、完全オンライン申請は制度として整えられたものですが、依頼するかどうかとは別の話です。専門家に依頼した場合に完全オンライン申請の形になるかどうかは、関係者が電子署名をできる状態にあるかどうかで決まります。急いでいる事情があるなら、問い合わせの段階でそのまま伝えてしまうのが確実です。
会社設立をご自身で進めることもできます。本人申請は合法で、法務省もオンラインでの申請の案内を出しています。どこまでを自分でやり、どこから専門家に任せるかは、時間の使い方の問題です。この記事の内容は2026年9月1日時点で確認したものです。運用は変わりますので、各セクションの出典で最新の案内をご確認ください。
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