法人設立ワンストップサービスと、士業への「丸投げ」は別物です|本人が申請する仕組みと、代理を頼むこと
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立の「ワンストップ」を調べていて、行政の法人設立ワンストップサービスと、事務所の「ワンストップ対応」がごちゃまぜになっている方。
- 国が用意している仕組みがあるなら、それを使えば専門家に依頼しなくても済むのかを知りたい方。
- この記事では、法人設立ワンストップサービスの操作手順は書きません。書くのは、それが何であって何ではないのか、士業への依頼とどこが違うのか、どちらを選ぶかの分かれ目はどこか、の三つです。特定の事務所やサービスを比べたり、順位を付けたりもしません。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
名前は似ていますが、指しているものが違います

会社設立で「ワンストップ」という言葉が出てくるとき、少なくとも二つの別のものを指しています。片方は国が用意している申請の仕組み、もう片方は会社設立を扱う事務所が案内している対応の範囲です。この二つが混ざると、話が噛み合わなくなります。
この記事で会社設立の観点から扱うのは、主に前者です。代理をするものではないという点だけは、はっきり押さえておいてください。ここを取り違えると、「申し込んだのに誰も動いてくれない」という食い違いが起こります。
法人設立ワンストップサービスについて書かれた古い記事の中には、現在は存在しないドメインの案内が残っていることがあります。現行のサービスはマイナポータル上にあります。当サイトでは、各セクションの出典から現行の案内をたどれるようにしています。
出典法人設立ワンストップサービス(デジタル庁) 旧URL app.houjin-portal.go.jp は存在しない。ドメイン直下は404なのでフルパスで書く。
法人設立ワンストップサービスとは何か

会社設立に関わる法人設立ワンストップサービスは、マイナポータルという一つのオンラインサービスを使って、法人を設立する際の一連の手続きを一度で行えるようにしたものです。これまでは、設立届出書の提出のような複数の手続きを、行政機関ごとにそれぞれ個別に行う必要がありました。
国税庁の案内によると、このサービスで行える手続きには、国税・地方税に関する設立届、雇用に関する届出(年金事務所・公共職業安定所)などの法人設立後に必要な行政手続きが含まれます。加えて、令和3年2月26日から定款認証・設立登記も対象になりました。

国税庁が公開している利用可能な国税関連手続の一覧には、法人設立届出、定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請、青色申告の承認申請、事前確定届出給与に関する届出、消費税に関する各種届出、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出などが挙げられています。
会社設立の準備は夜間に進めることも多いと思いますが、運用時間はメンテナンス期間を除いて24時間とされています。ただし国税関係手続については、電子申告の受付時間外に提出された場合は翌稼働日に提出されたことになる、と注意が添えられています。提出期限が絡む手続きでは、ここに気をつけてください。
出典法人設立ワンストップサービスの対象が全ての手続に拡大されました(国税庁)
使うために要るもの。ここに答えが出ています

このサービスを使うために必要なものを見ると、それが誰のための仕組みなのかがはっきりします。国税庁の案内には、次のものが挙げられています。
- 法人代表者のマイナンバーカード。案内には「必ず法人代表者のマイナンバーカードを利用してください」と書かれており、代表者以外の方から提出された届出書等については税務署から後日問い合わせがある、とされています。
- マイナンバーカードに対応したスマートフォンまたはパソコン。
- パソコンを利用する場合は、カードを読み取るための機器。
公開されているウェブマニュアルの流れも、本人が操作することを前提にしています。マイナンバーカードで本人認証をし、申請者情報と申請情報を入力し、添付ファイルを登録し、電子署名を付与して申請を送信するという順序です。申請状況の確認も、同じカードでログインして行います。
本人確認から電子署名まで、すべて法人代表者のマイナンバーカードで行います。誰かが代わりに申請するための仕組みではありません。ここが、士業への依頼といちばん違うところです。
裏を返すと、マイナンバーカードを持っていない場合や、読み取りの環境がない場合は、この仕組みそのものが使えません。会社設立の進め方を考えるときは、まずここを確かめてください。カードの取得には時間がかかることがあります。
出典ウェブマニュアル(法人設立ワンストップサービスの使い方) | 法人設立ワンストップサービス(デジタル庁) 操作手順の公式マニュアル
「まとめて出せる」ことと「代理してもらう」ことは違います

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。法人設立ワンストップサービスが束ねているのは、手続きの提出先です。作業そのものを引き受けているわけではありません。
つまり、会社設立で定款に何を書くか、資本金をいくらにするか、事業目的をどう表現するか、役員を誰にするか。こうした判断は本人が行います。入力する内容も、添付する書類も、本人が用意します。仕組みが束ねてくれるのは「出す先が一か所になる」という部分だけです。
一方、士業への依頼は、代理です。司法書士法3条1項1号は「登記又は供託に関する手続について代理すること」を司法書士の業務と定めています。会社設立の依頼を受けた専門家が、本人に代わって書類をつくり、本人に代わって申請します。ここが根本的に違います。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること。
サービスの名前から、何かを引き受けてくれる窓口のように読めてしまうことがあります。そうではありません。これは会社設立を進める本人が使う道具です。会社設立の判断や書類の中身について相談したい場合は、それぞれの分野の専門家に依頼するか、公的な相談の窓口を使うことになります。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
士業への依頼と並べて見ると、こうなります

会社設立の進め方として、二つを並べてみます。優劣の比較ではありません。それぞれが何をしてくれて、何をしてくれないのかを整理するための表です。

表の下から二行目に注目してください。ワンストップサービスを使っても、登録免許税などの実費はかかります。会社設立の費用は「実費(法定費用)」と「報酬」に分かれ、実費は誰に依頼しても、自分で手続きしても同じ額です。差が出るのは報酬の部分だけになります。
会社設立の手続きをご自身で行うことは合法で、現実的な選択肢のひとつです。国がこうした仕組みを整えていること自体が、本人による申請を前提にしている証でもあります。当サイトでは、自分で進めることを否定する書き方はしません。
出典会社設立は誰に頼む?司法書士・行政書士・税理士に依頼できること(マネーフォワード) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
「ワンストップ」と名の付くものは、ほかにもあります

ややこしいことに、会社設立の場面で「ワンストップ」と名の付く仕組みは、ほかにもあります。申請を束ねるものと、相談や窓口を束ねるものは別のものです。
会社設立を依頼する側から見ると、代理をしてくれるのは三つ目だけです。ほかは、申請の道具か、相談の窓口です。会社設立を進めるときは、自分がいま「道具が欲しい」のか「相談したい」のか「代わりにやってほしい」のかを分けて考えると、行き先を間違えません。
もうひとつ、混同されやすいのが会計ソフト事業者が提供している会社設立のツールです。これも「手続きがまとめてできる」という案内をされることがありますが、位置づけは法人設立ワンストップサービスに近く、本人が書類を作るためのソフトです。合法ですし、実際に多くの方が使っています。ただし、ツールが申請を代理することはありません。提出するのは本人か、依頼を受けた司法書士です。
無料で相談できる公的な窓口はいくつもありますが、そこで書類を作ってもらったり、申請を代理してもらったりすることはできません。一般的な案内までです。書類の作成や申請の代理を頼む段になったら、それぞれの分野の専門家への依頼が必要になります。
出典東京開業ワンストップセンター | 東京都のビジネスサポート | Invest Tokyo(東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室) 定款認証・登記・税務・年金・在留資格を1か所で扱う窓口
どちらを選ぶか。併用もできます

最後に、どちらを選ぶかの話です。片方に決める必要はありません。会社設立の一部を自分で進め、一部を依頼する組み方もできます。

会社設立でよくある組み方としては、登記までは司法書士に依頼し、設立後の届出は自分でワンストップサービスから出すという形があります。逆に、設立後の税務と社会保険は専門家に任せ、それ以外は自分で進めるという形もあります。どこで線を引くかは、時間と環境しだいです。
線を引くときに考えやすいのは、判断が要るところと、出すだけのところを分けるという見方です。定款の中身、事業目的の書き方、資本金や役員の決め方は判断が要ります。一方、決まった内容を所定の様式に載せて出す部分は、比較的手を動かすだけで済みます。判断が要るところを専門家に、出すだけのところを自分でという分け方は、会社設立でよく取られる形です。
法人設立届出書は設立の日以後2か月以内、青色申告の承認申請書は設立初年度なら設立の日以後3か月を経過した日と初年度終了の日のうち早いほうの前日まで、健康保険・厚生年金保険の新規適用届は事実の発生から5日以内。自分で出しても依頼しても、期限は変わりません。ここだけは先に押さえておいてください。
出典C1-4 内国普通法人等の設立の届出(国税庁)
まとめ|道具と、頼む相手を分けて考えてください

会社設立における法人設立ワンストップサービスと、士業への「丸投げ」の違いを見てきました。まとめます。
- 本人が申請する仕組みマイナポータル上のサービスで、法人代表者のマイナンバーカードで本人認証と電子署名を行います。代理をするものではありません。
- 束ねているのは提出先定款認証・設立登記から国税・地方税の設立届、雇用に関する届出まで、まとめて申請できます。ただし中身を考えるのは本人です。
- 士業への依頼は代理依頼を受けた専門家が、本人に代わって書類をつくり、申請します。ここが根本的に違います。
- 使えない場合があるマイナンバーカードがない、読み取りの環境がない場合は、そもそも利用できません。
- 実費は同じ登録免許税などの実費は、自分で手続きしても依頼しても同じ額です。差が出るのは報酬だけです。
- 併用できる登記だけ依頼して届出は自分で、という組み方も選べます。線をどこに引くかは自分で決められます。
会社設立を「丸投げしたい」と思って調べているときに、この二つが混ざると行き先を間違えます。代わりに動いてほしいのなら、依頼するのは専門家です。自分で進めたいけれど提出先が多くて困る、という場合に効いてくるのが、この仕組みのほうです。
制度も運用も変わります。この記事は2026年9月1日時点で確認した内容です。利用できる手続きの範囲や必要なものは変わることがありますので、各セクションに添えた出典で最新の案内をご確認ください。個別の依頼の可否や手続きの判断については、司法書士・税理士・行政書士・社会保険労務士といった各分野の専門家と、所管の窓口にご相談ください。
出典創業・スタートアップ支援(中小企業庁) ページ名は「創業・起業支援」ではない。
使う道具の話と、頼む相手の話です
法人設立ワンストップサービスと士業への依頼は、比べるものというより、層が違うと考えるほうがすっきりします。前者は申請のための道具、後者は代わりに動いてくれる相手です。道具を使うのは本人であり、相手に頼むのが依頼です。
ですから「ワンストップサービスがあるから依頼は不要」でもなければ、「依頼するならワンストップサービスは無関係」でもありません。会社設立の一部を自分で進め、一部を依頼するという組み方も普通にできます。どこで線を引くかは、時間、書類の複雑さ、マイナンバーカードや電子署名の環境がそろっているかで決まります。
会社設立の手続きをご自身で行うことは合法で、現実的な選択肢のひとつです。国がこうした仕組みを用意していること自体が、その裏づけでもあります。そのうえで、代理を頼みたい場面が出てきたら、そこだけを専門家に依頼すればよい、という考え方をおすすめします。個別の可否については、各分野の専門家と所管の窓口にご確認ください。
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