「会社設立代行」に資格は要る?無資格の相手に頼めること・頼めないことの境目
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立の依頼先を探していて「代行」と書かれたサービスをいくつも見つけたものの、その相手に資格が要るのかどうかが分からず、申し込みボタンの手前で止まっている方。
- 会計ソフトの会社設立ツールを使うつもりだけれど、ツールを使うこと自体は問題ないのか、どこから先は専門家に頼むことになるのかを確かめたい方。
- この記事は、特定の事業者を挙げて違法だと述べるものではありません。書いているのは、資格がない相手にも頼めることは何か、そして法律上どうしても資格者でなければできない仕事は何かという境目と、その根拠になっている条文です。境目が分かれば、案内の言葉を自分で読み分けられます。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
「会社設立代行」という言葉には、二つの意味が混ざっています

会社設立の依頼先を検索すると、「会社設立代行」という言葉が並びます。ところがこの言葉は、法律上の資格の有無をまったく区別しません。司法書士や行政書士が業として引き受ける代理・作成も、資格を持たない事業者が本人の手続きを支える支援も、どちらも「代行」と呼ばれているのが実情です。
この二つは、依頼する側から見ると同じように見えます。窓口があって、申し込みの画面があって、料金が書いてある。けれども中身はかなり違います。前者は依頼者に代わって書類を作り、手続きを進めます。後者は、あくまで本人が作り、本人が手続きすることを前提に、その周りを手伝います。

依頼先を選ぶときに迷うのは、多くの場合この二つが同じ言葉で語られているからです。「代行」と書いてあるかどうかでは、資格の有無は判別できません。判別できるのは、その相手が何を担当すると言っているのか、という中身のほうです。
資格を持たない事業者による会社設立の支援には、法律の範囲でできることがはっきりとあります。ここで書くのは「こういう案内をする相手には、この一言を確かめておく」という見分け方であって、特定のサービスを違法だと述べるものではありません。実際にどこまでが許されるかは、個別の事情によって判断が変わります。
出典会社設立代行とは|必ず知っておきたい6つの基礎知識(GMOあおぞらネット銀行) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。
資格がなくてもできることは、思っているより広くあります

先に、資格がなくてもできることのほうから確かめます。ここを飛ばして「資格がなければ何もできない」と書いてしまうと、実際の会社設立の進め方とかけ離れてしまうからです。
- 手続きの流れを案内すること会社設立にどんな段階があり、どの順番で進み、何を用意すればよいのかを説明することは、一般的な情報の提供であって、どの資格の独占業務にも当たりません。
- ツールの操作をサポートすること会計ソフト事業者の会社設立ツールは、本人が入力して書類を作るためのソフトです。その画面の使い方を教えたり、入力を手伝ったりすることは、書類を業として作成することとは別の行為です。
- 本人が作る書類の支援をすること本人が内容を決め、本人が作成する書類について、体裁を整える、必要なものが揃っているかを一緒に確かめる、印刷や製本の段取りをするといった支援は行えます。
- 日程と段取りを管理すること公証役場の予約、法務局の受付時間、金融機関での払込みのタイミングなど、進行の管理は資格の有無と関係ありません。
こうして並べてみると、会社設立の準備のうち相当の部分は、資格がなくても手伝える領域にあることが分かります。実際に多くの方が困るのは、法律の解釈ではなく段取りのほうです。そこを支えるサービスには、それなりの意味があります。

この表の見方で大事なのは、いちばん左の列がほぼ全部「できる」になっていることです。会社設立は、本人が自分で書類を作って自分で申請する限り、資格を必要としません。無資格の事業者が支援できる範囲が広いのは、その本人の行為を支えているからです。専門家に依頼する場合との違いは、書類を作る主体が誰かにあります。
各士業法が禁じているのは、他人の依頼を受けて業として行うことです。友人の会社設立を無償で一度だけ手伝うような場面と、料金を取って反復・継続的に引き受ける場面とでは、法律上の評価が変わります。会社設立の依頼を検討するときに関わってくるのは、当然ながら後者のほうです。
出典会社設立で代行できる手続きとは?専門家に依頼するメリット・デメリットと選び方(freee) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
登記のところだけは、どうやっても動かせません

境目のうち、いちばんはっきりしているのが登記です。設立登記の申請を代理すること、法務局に提出する書類を作成することは、司法書士法3条1項が司法書士の業務として定めています。
司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること。(略)
五 前各号の事務について相談に応ずること。
そして同法73条1項が、「司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と定めています。ただし書の「他の法律に別段の定めがある場合」に弁護士法3条が当たるため、登記の代理ができるのは司法書士と弁護士ということになります。
注意しておきたいのは、禁じられているのが代理だけではないことです。3条1項2号の書類の作成も、5号の相談も、73条1項の対象に入っています。つまり、「申請そのものは本人がしますから」という説明があっても、登記申請書類を業として作っていれば、そこは資格者の領域に入ります。
「登記申請書類はこちらで作成します」「登記まで一括で対応します」という案内があった場合、担当するのが司法書士か弁護士かを確かめてください。事務所の中にいるのか、提携先なのかはどちらでも構いません。名前まで聞く必要もありません。確かめるのは、その仕事を担当する資格者がいるかどうかの一点です。
なお、会社設立の登記を自分で申請するのは自由です。法務局は商業・法人登記の申請書様式と記載例を公開していますし、完全オンラインでの申請にも対応しています。ここまでの制限は、あくまで他人の依頼を受けて業として行う場合の話であって、本人申請を妨げるものではありません。専門家に依頼するか自分で申請するかは、時間と手間を見て決めれば足ります。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
定款のような権利義務に関する書類は、行政書士法の側の話です

会社設立でもうひとつ資格が関わるのが、定款です。定款は会社の根本規則を定めるもので、権利義務に関する書類に当たります。行政書士法1条の3第1項は、「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする」と、行政書士の業務を定めています。
行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。
ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
条文の書き方に注目してください。「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」とあります。料金の名前を「サポート料」「事務手数料」に変えても、報酬であることに変わりはないという趣旨です。逆に言えば、報酬を得ずに行う場合は19条1項の対象から外れます。
19条1項のただし書には、「他の法律に別段の定めがある場合」に加えて、総務省令で定める定型的な手続について、総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合という除外が置かれています。「資格がなければ書類の作成は一切できない」と読み切ってしまうと、現行の条文とはずれます。境目は、思われているよりも細かく引かれています。
行政書士法は、2026年5月21日施行の改正で条番号が繰り下がっています。業務を定める条は旧1条の2から現行1条の3へ、代理などを定める条は旧1条の3から現行1条の4へ移りました。現行の1条の2は「職責」の条です。古い解説を読むときは、条番号がずれている可能性を頭に置いてください。
会社設立の依頼という場面に引き直すと、こうなります。定款の文案を業として作ってもらうなら、依頼する専門家は行政書士・司法書士・弁護士のいずれかです。一方で、本人が会社設立ツールに入力して定款を作り、その操作を手伝ってもらうのであれば、作成の主体は本人ですから、話が変わります。
出典行政書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2026年5月21日施行の改正で条がずれた。現行は1条の3が業務、1条の4が代理等、1条の2は職責。19条1項違反の罰則は21条の2(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
税務の相談は、報酬をもらっていなくても資格が要ります

三つ目の境目が税務です。税理士法2条1項は、税理士の業務を税務代理・税務書類の作成・税務相談の三つとしています。会社設立の場面でいえば、法人設立届出書などの作成が二つ目に、資本金や決算期をどう決めるかという相談が三つ目に当たります。
ここで他の法律と違うのが、税理士法52条の書き方です。「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない」とだけあり、報酬を得ているかどうかを条件にしていません。行政書士法19条1項が「報酬を得て」と書いているのとは対照的です。

税理士法52条には報酬の要件がないため、無料で答えていても税務相談に当たりうるという点が、他の士業法との大きな違いです。会社設立の相談の場で「資本金はいくらにすると税金の面で得か」と尋ねたときに、資格を持たない相手が具体的な回答をしていたら、その場面は税務相談に近づいています。制度の一般的な説明にとどまっているかどうかを、聞きながら確かめてください。
出典税理士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項が業務(1号税務代理・2号税務書類の作成・3号税務相談)、3条1項4号が公認会計士の資格、51条が弁護士の通知、52条が業務の制限、59条1項が罰則(2年以下の拘禁刑又は1…
罰則はどうなっているのか。依頼した側はどうなるのか

境目を越えた場合に何が起きるのかも、条文で確かめておきます。ここを知っておくと、案内の言葉をどのくらい真剣に読むべきかの感覚が持てます。

並べてみると、税務だけが2年以下と重いことが分かります。登記と書類作成が1年以下であるのに対して、税理士業務は倍の重さです。報酬の要件がないことと合わせて、税務は境目がとくに厳しく引かれている領域だと考えてよいと思います。
2025年6月1日から、刑法の改正にともなって「懲役」は「拘禁刑」に置き換わりました。いまも「1年以下の懲役」と書いている記事は、それ以前の条文をそのまま写しているものです。会社設立の依頼先を調べていて条文の引用を見かけたら、確認日が書かれているかどうかを見てください。
- 罰則の対象になるのは、行った側です各法律の罰則は、禁止された業務を行った者に向けられています。依頼した側を処罰する規定は置かれていません。
- それでも困るのは依頼した側です手続きが途中で止まったとき、誰に責任を求めればよいのかがはっきりしません。資格を持つ専門家であれば所属する会があり、相談する先があります。
- やり直しの手間も、こちらに来ます書類に不足があって出し直しになった場合、日程を組み直すのは会社設立を進めている本人です。
- だから、事前の一言が効きます契約する前に「登記は誰が担当するのか」を確かめておけば、その後の見通しが立ちます。
こうして見ると、罰則を知る意味は「相手を疑うため」ではなく、確かめておくべき一点がどこかを知るためにあると分かります。会社設立の依頼で確かめるべき一点は、登記・定款・税務の三つを誰が担当するかです。
出典ニセ司法書士にご用心(東京司法書士会)
会社設立ツールが問題にならないのは、作る主体が本人だからです

ここまでの境目を踏まえると、会計ソフト事業者が提供している会社設立ツールが、なぜ資格の問題にならないのかも見えてきます。あれは、書類を本人が作るためのソフトだからです。
画面の案内にしたがって商号や資本金や役員を入力すると、定款や登記申請書類の文面が出来上がります。けれども内容を決めているのは本人ですし、作成しているのも本人です。ソフトは入力を整えて出力しているだけで、誰かの依頼を受けて業として書類を作成しているわけではありません。
- 決めるのは本人商号、事業目的、資本金の額、役員の構成。ツールは選択肢を並べますが、決定は本人が行います。
- 作るのも本人出来上がった書類は、本人が作成したものとして扱われます。ここが、業として作成する行為との違いです。
- 出す人も決まっています提出は本人が行うか、依頼した司法書士が代理して行います。ツールが申請を代理することはありません。
- 紹介の仕組みがある場合ツールの提供者が士業を紹介していることがあります。その場合、登記を担当するのは紹介された司法書士です。
法務局は商業・法人登記の申請書様式と記載例を公開しています。これは本人が申請できるようにするためのもので、会社設立の本人申請が制度として想定されていることの表れです。会社設立ツールは、その本人作成をやりやすくする道具だと考えると位置づけが分かりやすくなります。
そのうえで、ツールを使う場合にも境目は残ります。入力の途中で出てくる判断、たとえば事業目的の書き方が許認可の審査に影響するか、資本金の額が税の扱いにどう効くかといったところは、ツールでは決められません。そこは行政書士や税理士といった専門家に相談する部分です。
つまり、会社設立ツールと専門家への依頼は、対立するものではありません。書類を作る作業をツールに任せ、判断が要るところを専門家に相談するという組み合わせも、十分に現実的です。全部を専門家に依頼するか、全部を自分でやるか、という二択で考える必要はありません。
出典商業・法人登記の申請書様式(法務局)
まとめ|境目は「誰が作ったか」と「業として行ったか」にあります

会社設立の依頼先を「資格があるか、ないか」だけで見ると、話が単純になりすぎます。実際の境目は、次の二つの問いで引かれています。
- 誰が作ったのか書類を作った主体が本人であれば、周りの支援は資格の問題になりません。相手が作っているのであれば、その書類の種類に応じた資格が要ります。
- 業として行ったのか他人の依頼を受けて反復・継続して行っているかどうか。行政書士法は報酬を要件にし、税理士法は報酬を要件にしていないという違いもあります。
この二つを当てはめれば、たいていの案内は読み分けられます。ここまでの内容を、確認の順番に並べ直しておきます。

できることのほうも、忘れないでください
最後にもう一度書いておきます。資格がない相手にも、頼めることはあります。手続きの案内、会社設立ツールの操作サポート、本人が作る書類の支援、日程の管理。これらは法律の範囲内にあり、実際に会社設立を進めるうえで助けになる部分です。「代行」という言葉を見た瞬間に警戒する必要はありません。専門家への依頼と組み合わせて使うこともできます。
確かめるのは、その先の三つだけです。登記・定款・税務を、それぞれ誰が担当するのか。この一言を最初に聞いておけば、あとは安心して進められます。制度も条文も改正されますので、実際に判断されるときは、記事に添えた出典で最新の内容をご確認ください。
出典司法書士及び土地家屋調査士関係(法務省)
境目が分かれば、どちらも安心して使えます
会社設立の準備を進めていると、資格を持たない相手の助けを借りる場面はいくらでも出てきます。段取りを教えてもらう、入力画面の使い方を見てもらう、決めたことを書き出すのを手伝ってもらう。こうした支援は資格がなくてもできることの側にあり、それ自体をためらう必要はありません。会社設立を進めるうえで、実務的にはかなり助けになる部分です。
境目が引かれているのは、その先です。登記申請書類を業として作ること、定款のような権利義務に関する書類を業として作ること、税務の相談に応じること。この三つは、それぞれ司法書士法・行政書士法・税理士法が資格者に限っています。依頼するときに確かめるのは、この三つを誰が担当するのかという一点で足ります。
そして、会社設立の書類を自分で作って自分で申請するのは、まったく問題のない選択肢です。法務局は申請書の様式と記載例を公開していますし、会計ソフト事業者の会社設立ツールも、本人が書類を作るための道具として作られています。自分で作る部分と、専門家に依頼する部分を分けて考えれば、無理のない組み立てができるはずです。判断に迷うところは、それぞれの専門家か所管の官公署にご確認ください。
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