会社設立の「丸投げ」は、一つの資格では成り立たない|ワンストップの中身を資格ごとに分解します
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立を「まるごと任せたい」と思っていて、丸投げできる依頼先を探している方。
- 「ワンストップ対応」と書かれた案内を見て、その一つの事務所で本当に全部が完結するのかを確かめたい方。
- この記事では、特定の事務所やサービスを比べたり、順位を付けたりはしません。書くのは、会社設立でやることが法律上どの資格に割り振られているのかと、だから「丸投げ」がどういう形になるのかの二つです。分担そのものは普通のことで、問題のある形ではありません。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
「丸投げ」「ワンストップ」という言葉が指しているもの

会社設立の依頼先を調べていると、「丸投げできます」「ワンストップで対応します」という案内をよく見かけます。ところがこの言葉、書き手によって指しているものが違うことがあります。まずそこを分けておきます。
四つ目だけが成り立たない、というのがこの記事の中心です。ほかの三つは実際にある形で、依頼する側にとっては十分に価値があります。複数の専門家が関わる前提で読んでください。問題は、四つ目だと思い込んだまま依頼先を選ぶことです。
会社設立で複数の専門家が関わるのは、ごく普通の形です。専門家がひとりで完結しないことに、不安を持つ必要はありません。むしろ、それぞれの分野の資格者が担当しているということでもあります。この記事は、特定の事務所や代行サービスを疑わせるために書いているものではありません。仕組みを知っておくと、確認すべきことがはっきりする、というだけの話です。
出典会社設立代行とは|必ず知っておきたい6つの基礎知識(GMOあおぞらネット銀行) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。
会社設立でやることを、資格ごとに割り振ってみる

会社設立でやることを並べて、それぞれ業として担当できる資格を当てはめてみます。ここでの「できる・できない」は、力量の話ではありません。それぞれの法律が定めている業務の範囲の話です。

この表を縦に見ていただくと、どの列にもすべて印が付いている資格はないことが分かります。弁護士の列がいちばん広く見えますが、税務は所属弁護士会を経て国税局長に通知するという条件が付きますし、実務として会社設立の税務顧問まで担うことは多くありません。
横に見ると、一つの行に複数の資格が並ぶところがあります。定款の作成がそうです。ここは司法書士でも行政書士でも弁護士でも扱えます。だから「定款は行政書士、登記は司法書士」という組み合わせも成り立ちますし、「定款も登記も司法書士」という形も成り立ちます。
この表は、報酬をもらって業として行える範囲を示したものです。ご自身が、ご自身の会社の会社設立のために手続きをすることは、この制限の外にあります。本人申請は合法で、現実的な選択肢のひとつです。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
登記は司法書士と弁護士だけ。ここが動かせない中心です

表の中でいちばん動かせないのが登記です。設立登記の申請を代理できるのも、登記申請書類を作成できるのも、司法書士と弁護士だけです。会社設立の丸投げの案内を読むときに、まずここを確かめてください。

行政書士が登記を扱えない筋道は、行政書士法の側から説明されます。行政書士法1条の3第2項が「行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」と定めており、登記申請書類の作成はこれに当たるためです。
行政書士法は2026年5月21日施行の改正で条がずれています。業務を定めるのは現行の1条の3で、旧1条の2にあたります。旧1条の3は現行の1条の4です。19条1項に違反した場合の罰則も、21条ではなく21条の2で、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。古い解説の条番号をそのまま使わないでください。
つまり、会社設立を丸投げしたい場合でも、登記の段だけは必ず司法書士か弁護士が担当していることになります。税理士事務所や行政書士事務所が窓口になっている場合は、その事務所の中にいる司法書士か、提携している司法書士が担当している、という形です。
出典司法書士の業務(日本司法書士会連合会)
定款は複数の資格が扱えます。許認可は行政書士です

登記とは対照的に、定款の作成は複数の資格が扱えます。定款は権利義務に関する書類にあたるため、行政書士法1条の3第1項の業務に入ります。同時に、司法書士も登記の添付書面として作成でき、弁護士は法律事務全般として扱えます。
ここが重なっているおかげで、どの専門家に頼むかという会社設立の依頼の組み方に幅が出ます。定款から登記までを司法書士にまとめる形もあれば、定款は行政書士、登記は司法書士と分ける形もあります。どちらが正しいということはありません。
- 定款の作成行政書士・司法書士・弁護士が扱えます。会社設立を依頼すると電子定款になるのが通常で、その場合は紙の定款に必要な収入印紙4万円がかかりません。
- 定款認証の手続き株式会社で必要です。本店の所在地を管轄する法務局に所属する公証人が認証します。行政書士・司法書士・弁護士が手続きを扱えます。
- 許認可の申請建設業、飲食業、古物商、産業廃棄物の収集運搬など。官公署に提出する許認可の申請書類の作成と提出代理は行政書士の分野です。
- 事業目的の書き方許認可が要る業種では、定款の事業目的の書き方が審査に効いてくることがあります。定款の段階から行政書士に相談する意味があるのはこのためです。
許認可が要る業種で会社設立をする場合、行政書士が早い段階から入る形になりやすくなります。逆に、許認可が不要で設立後の顧問を重視する場合は、税理士が窓口になる形が多くなります。どちらが優れているという話ではなく、目的によって組み方が変わるということです。要否は業種と所管の官公署によりますので、必ず所管の窓口にご確認ください。
出典行政書士の業務(日本行政書士会連合会)
税務は税理士、社会保険は社労士。設立後に効いてきます

会社設立の丸投げで見落とされやすいのが、登記が終わったあとに出てくる二つの分野です。税務と社会保険で、担当する資格が別々に分かれます。
この二つは、担当できる専門家が明確に分かれています。税理士が社会保険の届出を代行することはできませんし、社会保険労務士が税務書類を作成することもできません。「全部お任せください」という案内があった場合、この二つを誰が担当するのかは確かめておく価値があります。
会社設立の依頼で「登記まで」「税務の届出まで」と範囲を決めた場合、社会保険は範囲の外にあることが多くなります。それが不親切ということではありません。扱える資格が違うためです。範囲の外なら、社労士を紹介してもらえるかを聞いておくと、手続きに切れ目がなくなります。
出典新規適用の手続き(日本年金機構)
資格を持たない代行業者にできること・できないこと

会社設立の代行をうたうサービスの中には、資格者が関わらないものもあります。ここも整理しておきます。すべてが問題だという話ではありません。できることと、できないことがある、というだけです。

会計ソフト事業者が提供している会社設立のツールは、本人が書類を作るためのソフトで、専門家の代理とは別のものです。これは合法で、実際に多くの方が使っています。ツールが申請を代理することはなく、提出するのは本人か、依頼を受けた司法書士です。
特定の業者を名指しして違法だと書くつもりはありません。代わりに、確かめ方を置いておきます。「登記の申請はどなたが代理されますか」「担当する資格者のお名前と登録は確認できますか」。この二つに答えが返ってこない、または資格者の関与をあいまいにしたまま「全部やります」とだけ言われる場合は、もう一歩聞いてみてください。まっとうに分担している依頼先であれば、聞かれて困る質問ではありません。
出典ニセ司法書士にご用心(東京司法書士会)
だから「窓口はひとつ、担当は複数」になります

ここまでを合わせると、会社設立の丸投げは「窓口はひとつ、担当は複数」という形に落ち着きます。依頼する側から見れば連絡先はひとつで、中で複数の資格者が分担している。これが通常の姿です。
ですから、依頼先に確かめることも多くはありません。次の三つで足ります。
- 登記はどなたが担当されますか。事務所の中の司法書士か、提携している司法書士か。どちらでも構いません。答えが返ってくることが大事です。
- 税務の届出はどこまで含まれますか。税務署だけか、都道府県と市町村も含むか。設立後の顧問契約と分けられるか。
- 社会保険の届出は範囲に入りますか。入らない場合、社労士を紹介してもらえるか。
この三つに加えて、見積書で実費と報酬が分かれているかを見てください。会社設立の費用は実費(法定費用)と報酬に分かれ、実費は誰に依頼しても、自分で手続きしても同じ額です。丸投げの見積もりで金額が大きく見えるときは、実費が含まれているだけということもあります。
分担が起きているからといって、丸投げに価値がないわけではありません。依頼する側が、書類の指示を一か所から受けられるというのは大きな利点です。複数の専門家からそれぞれ別に連絡が来る形と比べると、会社設立の進み方が読みやすくなります。分担していること自体は、心配するところではありません。
出典会社設立で代行できる手続きとは?専門家に依頼するメリット・デメリットと選び方(freee) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
まとめ|丸投げの中身は、必ず資格ごとに分かれています

会社設立の「丸投げ」「ワンストップ」の中身を、資格ごとに分解してきました。まとめます。
- 一つの資格で全部はできない登記は司法書士と弁護士、定款は行政書士・司法書士・弁護士、税務は税理士、社会保険は社会保険労務士、許認可は行政書士です。
- 登記がいちばん動かせない司法書士法3条1項と73条1項によります。違反の罰則は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(同法78条1項)。
- 定款は重なっている複数の資格が扱えるため、依頼の組み方に幅が出ます。どの組み方が正しいということはありません。
- 設立後に二つ出てくる税務と社会保険です。範囲に入っているかどうかを確かめてください。
- 無資格でもできることはある案内、ツールの操作支援、本人による作成の支援。業として書類を作成し代理することはできません。
- 確かめるのは三つ登記、税務、社会保険を誰が担当するか。答えが返ってくれば、丸投げしても中で回ります。
繰り返しになりますが、分担していること自体は問題ではありません。むしろ、それぞれの分野を資格者が担当しているということです。会社設立の依頼で確かめておきたいのは、分担が起きているかどうかではなく、その割り振りが説明できる状態かどうかのほうです。
制度も条文も改正されます。この記事は2026年9月1日時点で確認した内容です。各セクションに添えた出典で最新の内容をご確認ください。個別の依頼の可否や見積もりの妥当性については、司法書士・税理士・行政書士・社会保険労務士といった各分野の専門家に直接ご相談ください。
出典会社設立は誰に頼む?司法書士・行政書士・税理士に依頼できること(マネーフォワード) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
丸投げは、できます。ただし中身は分かれています
誤解のないように書いておきます。会社設立を実質的に丸投げすることはできます。窓口がひとつで、依頼した側が何度も別の事務所へ連絡しなくて済む形は、たしかに存在します。この記事で言いたいのは「丸投げは無理だ」ということではありません。
言いたいのは、その中身は必ず複数の資格に分かれているということだけです。登記は司法書士か弁護士、定款と許認可は行政書士(司法書士・弁護士も定款は扱えます)、税務は税理士、社会保険は社会保険労務士。ここは事務所の方針で動かせる部分ではなく、法律で決まっています。
ですから、依頼先を探すときに見るべきなのは「全部できますか」という質問への答えではありません。「登記はどなたが」「税務はどなたが」「社会保険はどなたが」という、担当の割り振りのほうです。この三つに答えが返ってくる依頼先なら、丸投げしても中で回ります。個別の依頼の可否については、必ず各分野の専門家にご確認ください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。