会社設立で税理士と司法書士は何が違うのか|根拠になる法律から、頼める手続きの線引きまで
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立の依頼先を調べていて、税理士と司法書士のどちらに声をかければよいのかが決まらない方。どちらの事務所も入口に「会社設立をお任せください」と書いているので、違いが見えにくいのだと思います。
- 「登記は司法書士、税務は税理士」という説明そのものは見かけたけれど、なぜそこで線が引かれているのかという理由まで確かめてから、依頼先を決めたい方。
- この記事では、二つの資格の違いを、それぞれの根拠になっている税理士法と司法書士法までさかのぼって並べます。特定の事務所を比べたり、どちらの専門家が優れているかを論じたりはしません。書くのは、会社設立というひとつの出来事のなかで、二人の担当がどこで分かれ、どこで受け渡されるのかだけです。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
税理士と司法書士は、そもそも根拠になっている法律が違います

会社設立の依頼先として税理士と司法書士が並んで出てくると、同じ仕事を取り合っているように見えます。けれども実際には、二つの資格は別々の法律で、別々の仕事を与えられているだけです。まずその二本の条文を並べてしまうのが、いちばん早い理解の仕方だと思います。
税理士は、他人の求めに応じ、租税(略)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 税務代理(略)
二 税務書類の作成(略)
三 税務相談(略)
司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること。(略)
五 前各号の事務について相談に応ずること。
並べてみると、重なっている語がひとつもないことが分かります。税理士法に書いてあるのは租税に関する事務で、司法書士法に書いてあるのは登記に関する事務です。会社設立という場面でこの二つが同時に必要になるだけで、仕事そのものは最初から別のところに置かれています。

以下で「できる・できない」と書いているのは、他人の依頼を受け、報酬をもらって業として行えるかどうかの話です。会社設立の手続きを自分で行うことは、資格がなくてもできます。本人申請は合法で、現実的な選択肢のひとつです。
出典税理士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項が業務(1号税務代理・2号税務書類の作成・3号税務相談)、3条1項4号が公認会計士の資格、51条が弁護士の通知、52条が業務の制限、59条1項が罰則(2年以下の拘禁刑又は1…
会社設立の場面で、それぞれが担当できる手続きを並べてみる

条文だけでは実感が湧きにくいので、会社設立という場面に落として並べ直します。観点ごとに左右で見比べると、二人がまったく別の書類を、別の役所に向けて作っていることが分かります。

表の四段目を見てください。書類を出す先が違うというのが、この二つの資格の差をいちばん端的に表しています。司法書士が向き合うのは法務局で、税理士が向き合うのは税務署です。役所が違えば、そこに出す書類を業として作れる資格も別に決められている、というだけの話です。
- 会社を成立させる側登記が通って初めて会社は存在します。ここを担当するのが司法書士です。会社設立の依頼で真っ先に思い浮かぶのは、たいていこちら側の仕事です。
- 会社が動きはじめてからの側成立した会社には申告の義務が生まれます。ここを担当するのが税理士です。会社設立は入口で、実際の付き合いはそのあとに長く続きます。
- どちらにも触れない部分社会保険と労働保険の届出は社会保険労務士、営業の許認可は行政書士の分野です。税理士も司法書士もここは扱えません。人を雇う予定や許認可のある業種なら、別の専門家への依頼が要ります。
つまり、税理士と司法書士は競合しているのではなく、会社設立というひとつの流れの前半と後半を分け合っている関係です。どちらか一方だけで足りるかどうかは、設立後に何を任せたいかで決まります。
出典司法書士の業務(日本司法書士会連合会)
なぜ「登記は司法書士、税務は税理士」で線が引かれるのか

「登記は司法書士、税務は税理士」という言い方は、慣習ではなく法律の結果です。二つの法律には、その資格を持たない者が業として行うことを禁じる条文が、それぞれ置かれています。
司法書士法73条1項は「司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない」と定めています。違反した場合は、同法78条1項により1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。税理士も、この規定の外にはいません。
逆に、税理士法52条は「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない」と定めています。こちらの罰則は同法59条1項4号で、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金。司法書士が税務相談に踏み込めないのは、この条文があるからです。
2025年6月1日から、刑法の改正にともなって「懲役」は「拘禁刑」に置き換わりました。いまも「1年以下の懲役」と書いてある記事は、それ以前の条文をそのまま写しています。条文を引いた記事を読むときは、確認した日付が書いてあるかどうかを見てください。

この二本の禁止規定が向かい合っているので、どちらの資格も相手の領分には入れません。税理士事務所が会社設立をまとめて引き受けているように見える場合も、登記の部分は司法書士が担当しています。ここは事務所の方針で動かせるものではなく、法律の側で決まっています。
なお、司法書士法73条1項のただし書に「他の法律に別段の定めがある場合」とあり、弁護士法3条1項がこれに当たります。弁護士は登記の代理も行え、税務についても所属弁護士会を経て国税局長に通知すれば扱えます(税理士法51条1項)。ただし会社設立の依頼先として実務で選ばれることは多くありません。三つ目の専門家として覚えておく程度で足ります。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
税理士に会社設立で頼めることの中身

税理士に会社設立を依頼するとき、実際に動くのは次の三つです。税理士法2条1項の三つの号を、会社設立の場面に置き換えたものだと思ってください。
会社設立の依頼として意味が大きいのは、三つ目の税務相談です。資本金の額、決算期、役員報酬の決め方は、いずれも設立したあとの税の扱いに効いてきます。しかも資本金と決算期は定款と登記に載るため、あとから変えるには手間がかかります。設立の設計段階で相談できるかどうかは、税理士に会社設立を依頼する理由のひとつになります。
- 法人設立届出書設立の日以後2か月以内に、納税地の所轄税務署長へ提出します。定款等の写しを添えます。都道府県と市町村にも同様の届出が要ります。
- 青色申告の承認申請書設立第1期から青色申告にするなら、期限があります。出し忘れると、その期は白色のままになります。
- 給与支払事務所等の開設届出書役員報酬や給与を払うなら出す届出です。代表者ひとりの会社でも、報酬を出すなら関わります。
税理士に会社設立を依頼する場合、多くは設立そのものより、そのあとの記帳・決算・申告が本体になります。設立サポートを入口にして顧問契約へつながる形が一般的なので、依頼するときは設立時だけでなく、その先の対応範囲まで一緒に確かめておくと齟齬が起きません。
いっぽうで、税理士に登記申請書類の作成を頼むことはできません。社会保険と労働保険の届出も税理士の業務ではなく、こちらは社会保険労務士の分野です。会社設立の依頼を税理士に一本化しようとすると、この二つは必ず別の専門家の手に渡ります。
出典C1-4 内国普通法人等の設立の届出(国税庁)
司法書士に会社設立で頼めることの中身

司法書士に会社設立を依頼するとき、動くのは登記に向かう一本の線です。会社は登記によって成立するので、この線が通らないかぎり会社は存在しません。会社設立の依頼としては、いちばん中心にある仕事だといえます。
- 設立登記の申請の代理法務局への申請を、本人に代わって行います。司法書士法3条1項1号。会社設立の依頼で真っ先に思い浮かぶのはここです。
- 登記申請書と添付書類の作成登記申請書、就任承諾書、払込みがあったことを証する書面などを作ります。同項2号。
- 定款の作成と認証手続き定款は権利義務に関する書類で、司法書士も行政書士も作成できます。株式会社なら公証役場での認証手続きも扱えます。
- 登記についての相談同項5号。役員の構成や本店の定め方など、登記に載る事項の決め方を相談できます。
会社設立を司法書士に依頼する実務上の利点として、電子定款になるのが通常という点があります。紙の定款だと収入印紙が4万円かかりますが、電子定款なら不要です。これは実費の側の差なので、報酬と合わせて総額で見ると印象が変わることがあります。
いっぽう、司法書士は税務書類の作成も税務相談もできません。法人設立届出書を司法書士に作ってもらうことはできませんし、「資本金はいくらが得か」という相談にも踏み込めません。登記に必要な範囲での説明と、税務上の判断は、別のものとして扱われます。
法務局は商業・法人登記の申請書様式と記載例を公開していて、完全オンライン申請にも対応しています。本人が申請するのは合法で、時間をかけられるなら現実的な選択肢です。この記事で見ている制限は、あくまで報酬をもらって業として代理する場合の話です。
出典商業・法人登記の申請書様式(法務局)
両方に依頼するときの順番。定款、登記、税務の届出

税理士と司法書士の両方に依頼する場合、二人に同時に動いてもらうわけではありません。会社設立の手続きには決まった順番があり、前の段が終わらないと次の段に進めないためです。並べると次のようになります。

注目してほしいのは1段目です。資本金の額と決算期は、定款と登記に載る前に決めておかなければなりません。つまり、税理士に相談する意味がいちばん大きいのは、司法書士が動きはじめる前だということになります。設立後の税を見てもらう予定があるなら、声をかける順番としては税理士が先になりやすい形です。
逆に、登記だけを済ませたい場合や、設立後の経理は自分でやるつもりの場合は、司法書士に直接依頼して構いません。税理士を通さなければ登記できない、ということはありません。この場合、税務の届出は自分で出すか、必要になった時点で税理士を探すことになります。
税理士に会社設立を依頼すれば提携先の司法書士へ、司法書士に依頼すれば設立後に税理士を紹介される、という形はどちらもよくあります。依頼する側が二人の専門家を自分で探して並べる必要はありません。確かめておくとよいのは、その受け渡しをどちらの事務所が引き受けてくれるのかです。
なお、6段目の登記事項証明書は、税務の届出だけでなく銀行口座の開設にも要ります。登記が通ってから会社が実際に動きはじめるまでには少し間があるので、会社設立の依頼をするときは、その先の予定も含めて時期を伝えておくと進めやすくなります。
出典9-4 定款認証(日本公証人連合会) 拡張子・末尾スラッシュなしが実効URL。
設立後の付き合い方が違う。司法書士は登記のたび、税理士は毎月・毎年

どちらの専門家に会社設立を依頼するかを考えるとき、意外と見落とされるのがここです。設立が終わったあと、二つの資格との付き合い方はまったく違う形になります。依頼の重さを比べるなら、設立時の報酬だけでなく、この先の関係まで含めて見たほうが実態に近くなります。

- 司法書士は「出来事ベース」登記すべきことが起きたときに、その都度また依頼する関係です。会社設立はその最初の一回にあたります。株式会社の役員には任期があるので、何もなくても数年に一度は登記が必要になります。
- 税理士は「期間ベース」月次と年次で回る関係です。だから会社設立の依頼を税理士にする場合、実質的には顧問契約の相手を選んでいることになります。相性やレスポンスを気にしたほうがよいのは、こちら側です。
- 比べ方も変わります司法書士は一回分の報酬で比べられますが、税理士は月額と契約期間まで含めないと比べられません。同じ「会社設立の依頼」でも、見積書の読み方が違います。
この違いがあるので、「税理士と司法書士のどちらに会社設立を依頼するか」という問いは、実は「設立後に顧問を付けるかどうか」とほぼ同じ問いになります。付けるつもりなら、その相手に設立から関わってもらうほうが話が早い。付けないつもりなら、登記だけを司法書士に依頼して終わりにする形が素直です。
出典税理士に相談する(日本税理士会連合会)
まとめ|税理士と司法書士の違いは、法律の側で決まっています

会社設立で税理士と司法書士がどう違うのかを、ここまでの内容から短くまとめます。
- 根拠になる法律が違う税理士は税理士法2条1項、司法書士は司法書士法3条1項。条文に書かれている仕事が重なっていません。
- 向かう役所が違う司法書士は法務局へ、税理士は税務署・都道府県・市町村へ。作れる書類もそこで分かれます。
- 関わる時期が違う司法書士は会社が成立するまで、税理士は成立したあと。設立の設計相談だけは、税理士も登記の前に入ります。
- 設立後の関係が違う司法書士は登記が要るたび、税理士は毎月・毎年。依頼の重さがそもそも別種です。
- どちらも入れない領域がある社会保険は社会保険労務士、営業の許認可は行政書士。二人だけでは会社設立の全部は埋まりません。
そのうえで、依頼先は「どちらが良いか」ではなく頼みたい仕事から決めてください。登記を通したいなら司法書士、設立後の税まで見てほしいなら税理士。両方に頼む場合の順番は、定款・登記・税務の届出という手続きの順番がそのまま答えになります。
依頼する前に、資格そのものを確かめておく
どの依頼先を選ぶ場合でも共通して使える確認の手段として、各士業の全国団体が名簿の検索を公開しています。税理士は日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトで、登録の内容だけでなく懲戒処分の有無も確認できます。司法書士は日本司法書士会連合会の検索から確かめられます。これは特定の事務所を勧めるものではなく、どの専門家に依頼する場合にも共通して使える確認の手段です。

会社設立は、多くの方にとって一度きりの手続きです。だからこそ、二つの資格の違いを能力の比較ではなく法律の配り方として押さえておくと、案内の言葉に迷わされにくくなります。条文も統計も改正・更新されますので、実際に依頼を決めるときは、各セクションに添えた出典で最新の内容を確かめてください。
出典税理士情報検索サイト(日本税理士会連合会) 登録内容のほか懲戒処分の有無も確認できる。
違いが分かれば、最初の一本の電話は決まります
税理士と司法書士の違いは、専門家としての能力や格の差ではありません。根拠になっている法律が別で、そこに書かれている仕事の中身が重ならないように配られている、というだけのことです。司法書士は会社を法的に成立させるところまで、税理士は成立した会社が税とどう付き合うかを。会社設立という出来事は、その二つの担当をまたいで進みます。
ですから、迷ったときに考えるのは「どちらが良いか」ではなく、いま自分が動かしたいのはどちらの側かです。とにかく会社を成立させたいなら司法書士へ。資本金や決算期の決め方から相談したい、設立後の記帳まで見てほしいなら税理士へ。片方に声をかければ、もう片方は向こうが連れてきてくれることも多く、依頼する側が二人分を探して回る必要はありません。
そして、会社設立の手続きを自分で進めるのも、まったく問題のない選び方です。本人が申請するかぎり資格は要りません。ここで見た線引きが効いてくるのは、報酬をもらって業として代わりに行う場合だけです。制度も条文も改正されますので、実際に判断されるときは、各セクションに添えた出典で最新の内容をご確認ください。個別の可否は、それぞれの専門家に直接ご相談ください。専門家の側も、自分の資格で扱える範囲は必ず答えてくれます。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。