会社設立を会わずに依頼できるか|オンライン対応の確かめ方と、紙が残るところ
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立を専門家に依頼したいけれど、平日に事務所へ出向く時間が取りにくく、会わずにどこまで進められるのかを知りたい方。
- 事務所のページに「全国対応」「オンライン完結」と書いてあり、その中身が具体的に何を指すのかを確かめてから問い合わせたい方。
- この記事では、特定の事務所やサービスを比べたり順位を付けたりはしません。書いているのは、会社設立の依頼のどこが遠隔でできて、どこに紙が残るのかと、問い合わせの段階で確かめておける項目です。ご自身の場合にどう進むかは、依頼先の専門家に直接お尋ねください。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
会わずに依頼するとき、どこがオンラインになるのか

「会社設立をオンラインで依頼できます」という案内を見たとき、そこには少なくとも二つの意味が混ざっています。ひとつは依頼する人と事務所とのやり取りが遠隔で済むという意味、もうひとつは手続きそのものが電子で行われるという意味です。前者は打ち合わせの方法の話、後者は電子定款や登記のオンライン申請の話で、別のものです。
そして、どちらの意味であっても変わらないことがあります。誰が何を業として行えるかは法律で決まっていて、遠隔かどうかでは動きません。会社設立の依頼先を考えるときの土台になるので、先に置いておきます。

この表は、対面で依頼しても、画面越しに依頼しても同じです。オンライン対応を掲げている事務所であっても、登記の代理ができるのは司法書士と弁護士だけですし、税務の届出は税理士の分野です。会社設立を一つの窓口で受けている事務所は、事務所の中に有資格者がいるか、外部の専門家と提携して分担しています。
以下で「できる・できない」と書いているのは、報酬をもらって業として行えるかどうかの話です。会社設立の手続きをご自身で行うことは、どの資格がなくてもできます。本人申請は合法で、現実的な選択肢のひとつです。
出典会社設立は誰に頼む?司法書士・行政書士・税理士に依頼できること(マネーフォワード) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
面談の方法を確かめる。テレビ電話か、電話とメールだけか

会社設立の依頼で「会う」場面は、大きく二つあります。ひとつは依頼先の専門家との打ち合わせ、もうひとつは株式会社の場合の公証人による定款の面前確認です。この二つは主体も目的も違うので、分けて確かめてください。
事務所との打ち合わせ
依頼先との打ち合わせをどう行うかは、事務所ごとの運用です。テレビ電話を使うところ、電話と電子メールだけで進めるところ、書類の郵送と電話で済ませるところがあります。どれが優れているという話ではありません。問い合わせの段階で「打ち合わせはどのような方法になりますか」と聞けば、たいてい具体的な答えが返ってきます。
公証人による面前確認
株式会社の定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じません(会社法30条1項)。この認証のとき、発起人などの本人確認が行われます。日本公証人連合会は、公証役場に出向かなくてもテレビ電話で電子定款の面前確認ができると案内しています。テレビ電話の利用そのものは無料で、通信にかかる費用は利用者の負担です。
- テレビ電話は予約制で、電子メールまたは予約申込みのフォームから申し込みます。
- 予約した日時に、公証役場から届いた接続用のリンクを開くと通話の画面が立ち上がります。
- 顔写真付きの公的な身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、旅券、在留カードなど)のうち、いずれか一つを手元に用意します。
- 利用には、インターネットの接続環境と、カメラとマイクの使える端末が要ります。
公証人の認証が必要なのは、株式会社のほか一般社団法人・一般財団法人や士業法人などの定款です。合名会社・合資会社・合同会社という持分会社の定款には、認証は要りません。会社法575条が定款の作成を定めるだけで、認証を求める規定がないためです。合同会社で会社設立を考えている方は、この面前確認の場面がそもそも発生しません。
つまり、会社設立で「会う」機会は、合同会社なら事務所との打ち合わせだけ、株式会社でもテレビ電話が使えれば移動せずに済む、という形になります。ここまでは比較的きれいに遠隔化されている部分です。
出典テレビ電話で電子定款の面前確認ができます(日本公証人連合会(公証役場一覧)) 公証役場に出向かずテレビ電話で電子定款の面前確認を受ける手順・必要環境・本人確認書類
書類のやり取り。何が電子で動き、何が紙のまま動くか

会社設立の依頼で扱う書類は、電子のまま最後まで進むものと、どこかで紙に戻るものに分かれます。この分かれ目を作っているのが、登記の添付書面をすべて電磁的記録で用意できるかどうかです。
法務省は、添付書面情報(定款、発起人の同意書、就任承諾書など)がすべて電磁的記録で作成され、申請書情報とあわせて送信されるものを完全オンライン申請と呼んでいます。添付書面を登記所に持参したり送付したりする場合は、オンライン申請であっても完全オンライン申請にはあたりません。電磁的記録で作成した添付書面情報を送るには、作成者の電子署名が付いている必要があります。株式会社の電子定款であれば、作成者と認証者の両方の電子署名です。

右側が一枚でも残ると、郵便が一往復します。会社設立を急いでいる場合、ここが日程に効いてくることがあります。「オンライン完結」と書かれていても、印鑑証明書だけは郵送でお願いします、という運用は珍しくありません。それが悪いということではなく、先に分かっていれば予定が立てやすい、という話です。
添付書面を電子にするには、その書面に署名すべき人が電子署名をできる状態にある必要があります。法務省は、一人株式会社や一人合同会社であれば公的個人認証サービスの電子証明書を取得することで、申請書情報とすべての添付書面情報に電子署名を付けられると案内しています。発起人や役員が複数いる場合は、その全員について同じことが言えるかどうかが問題になります。
出典法務省:一人会社の設立登記申請は完全オンライン申請がおすすめです!(法務省) 一人株式会社・一人合同会社は公的個人認証サービス電子証明書で全添付書面に電子署名でき、完全オンライン申請が可能
押印と印鑑証明書。会わなくても済むのはどこまでか

会社設立で押印がどこまで残るかは、依頼する側がいちばん気にするところだと思います。ここは制度の側でも整理が進んでいて、オンラインで登記を申請する場合、印鑑の提出は任意とされています。登記所が発行する印鑑証明書が必要であるといった理由があるときに、印鑑を提出することができる、という形です。
印鑑を提出する場合は、登記の申請とは別に印鑑届書を作成し、管轄の登記所に持参または郵送するか、オンラインによる登記の申請とあわせてオンラインで提出することになります。会社設立のあとに融資や不動産の取引を予定していて、会社の印鑑証明書が要るのであれば、提出しておくほうが後の手間は少なくなります。
登記・供託オンライン申請システムに送信した日ではなく、登記所で受付された日が会社の設立の日になります。登記所の受付時間は平日の8時30分から17時15分までで、それ以降や休日に送信された場合は翌業務日の受付です。設立日にこだわりがある場合は、この点を依頼先と先に共有しておいてください。
会社設立の日を「この日にしたい」と決めている方は少なくありません。遠隔で依頼する場合、書類が郵便で往復する分の余裕を見ておく必要があります。希望日があるなら、問い合わせの最初の段階で伝えておくほうがよいです。
出典完全オンライン申請による法人設立登記の24時間以内処理について(法務省)
電子定款に対応しているかを確かめる

会わずに依頼するという話とは別に、定款を電子で作るかどうかは必ず確かめておきたい項目です。紙で定款の原本を作ると印紙税法の第6号文書にあたり、収入印紙4万円が必要になります。電磁的記録で作った定款には、これがかかりません。
理由は「電子だから安くなる」といった大まかなものではありません。印紙税法2条は「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する」と定めていて、課税の対象は文書です。国税庁の質疑応答事例は「印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません」としています。文書でないものには、そもそも課税されないという筋道です。
会社法26条2項は、株式会社の定款について「前項の定款は、電磁的記録をもって作成することができる」と定め、この場合には法務省令で定める署名または記名押印に代わる措置をとらなければならないとしています。持分会社についても575条2項が同じ形の規定を置いています。電子定款は制度として正面から認められているもので、特別な抜け道ではありません。
なくなるのは紙の定款の収入印紙4万円だけです。株式会社の定款認証の手数料(資本金の額等が100万円未満は3万円、100万円以上300万円未満は4万円、300万円以上は5万円。100万円未満で一定の3条件をすべて満たす場合は1万5,000円)と、設立登記の登録免許税は、電子でも紙でも同じようにかかります。これらの実費は、どの専門家に依頼しても、ご自身で手続きしても同じ額です。
日本公証人連合会は、電子公証で認証の対象になる電子文書はPDF形式に限られること、電子公証に対応できるのは法務大臣に指定された指定公証人であることを案内しています。事務所に依頼する場合、この部分は依頼先が段取りしますので、依頼する側としては「定款は電子定款になりますか」と聞ければ足ります。
出典9-5 電子公証(電磁的記録の認証及び電子確定日付)(日本公証人連合会) 電磁的記録の認証手続の制度説明
資格の確認は、会わなくてもできます

会って話せば分かることが、画面越しだと分かりにくい。会社設立を遠隔で依頼するときに、ここを不安に感じる方は多いと思います。ただ、相手が登録された専門家かどうかは、会わなくても確かめられます。各士業の全国団体や都道府県の会が、会員を検索できる仕組みを公開しているからです。
- 司法書士日本司法書士会連合会が全国の司法書士・司法書士法人を検索できるページを公開しています。登記を依頼する相手であれば、ここで確かめられます。
- 行政書士日本行政書士会連合会の会員検索で、登録されている行政書士・行政書士法人を調べられます。
- 税理士日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトで、登録の有無だけでなく懲戒処分の有無まで確認できます。
- 社会保険労務士連合会の公式な全国横断の個人検索はありません。各都道府県の社会保険労務士会の一覧から、地域の会をたどることになります。
- 弁護士日本弁護士連合会の弁護士情報検索で、登録されている弁護士を調べられます。
会員検索は、どの専門家に依頼する場合にも共通して使える確認の手段です。当サイトでは特定の事務所やサービスを比較したり、順位を付けたりはしていません。名簿にあることは、その人が登録された有資格者であるということまでを示すもので、依頼先としての優劣を示すものではありません。
あわせて確かめておきたいのが、担当するのが誰なのかです。会社設立の相談を受け付けている窓口が、有資格者本人なのか、事務所の職員なのか。登記の部分を提携先の司法書士が担当するのであれば、その司法書士は誰なのか。遠隔だと担当者の顔が見えにくいぶん、名前を確かめておく意味があります。まっとうに分担している事務所であれば、聞かれて困る質問ではありません。
出典司法書士検索(日本司法書士会連合会) 旧ドメイン kensaku.shiho-shoshi.or.jp は証明書のホスト名不一致で使えない。
オンラインで依頼するときに確かめること

ここまでの内容を、問い合わせのときにそのまま聞ける形にまとめます。会社設立を会わずに依頼する場合、金額より先に進め方の前提をそろえておくほうが、あとで食い違いにくくなります。

こういう案内には、もう一歩聞いてみてください
資格の説明がないまま「登記まで含めてうちで全部やります」とだけ返ってくる場合は、担当する資格者を尋ねてください。登記申請書類を業として作成できるのは司法書士と弁護士だけで、司法書士法73条1項がそれ以外の者に禁じています。違反した場合の罰則は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(同法78条1項)。これは特定の業者を疑う話ではなく、依頼する側が確かめておけば防げるところ、という意味です。
なお、会計ソフトの事業者が提供している会社設立の支援ツールは、本人が書類を作るためのソフトであって、合法なものです。ツールが申請を代理することはありません。作った書類を誰が提出するのか(本人か、司法書士か)という点だけ、押さえておけば十分です。
出典会社設立で代行できる手続きとは?専門家に依頼するメリット・デメリットと選び方(freee) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
まとめ|三つに割って確かめれば、たいてい答えが出ます

会社設立を会わずに依頼できるかという問いは、打ち合わせの方法・書類の受け渡し・押印と本人確認の三つに割ると答えが出ます。ここまでの内容を短くまとめます。
- 打ち合わせ事務所との打ち合わせの方法は事務所ごとの運用です。株式会社の定款の面前確認は、テレビ電話で受けられると日本公証人連合会が案内しています。
- 定款認証が要るのは株式会社合同会社などの持分会社には認証が要りません。会社法575条に認証を求める規定がないためです。合同会社なら公証人と会う場面自体がありません。
- 書類添付書面をすべて電磁的記録にできれば完全オンライン申請になります。一枚でも紙が残ると、郵便が一往復します。
- 押印オンラインで登記を申請する場合、会社の印鑑の提出は任意です。設立後に会社の印鑑証明書が要るかどうかで決めます。
- 電子定款紙の定款だと収入印紙4万円がかかります。電磁的記録には課税されません。印紙税法2条の課税対象が文書であり、電磁的記録は文書に含まれないためです。
- 資格の確認各団体の会員検索で、会わなくても確かめられます。担当者の名前も聞いておくとよい項目です。
- 範囲は変わらない遠隔でも、登記の代理は司法書士と弁護士、税務は税理士、社会保険は社会保険労務士の分野です。
会社設立の依頼先を遠方から選べるようになったことで、選べる幅は確かに広がりました。ただ、広がったぶん確かめる項目も増えています。上のチェックリストは、そのための道具として使っていただければと思います。
この記事の内容は2026年9月1日時点で確認したものです。制度も運用も変わりますので、実際に会社設立を進められるときは、各セクションに添えた出典で最新の案内をご確認ください。個別の依頼の可否や見積もりの妥当性については、司法書士・行政書士・税理士といった各分野の専門家に直接ご相談ください。
出典商業・法人登記申請手続(法務局)
「オンライン対応」の中身を、三つに割って聞いてください
会社設立を会わずに依頼できるかどうかは、ひとことで答えの出る話ではありません。打ち合わせの方法、書類の受け渡しの方法、押印と本人確認の方法という三つに割って、それぞれどうなるかを聞くのがいちばん早い確かめ方です。三つのうち二つは画面の中で済むのに、残る一つで郵便が往復する、ということが普通に起こります。
そして、遠隔で進められるかどうかと、誰に何を頼めるかは別の話です。オンラインになっても、登記の代理ができるのは司法書士と弁護士だけですし、定款の作成を業として行えるのは行政書士・司法書士・弁護士です。画面越しであっても、資格の線引きは動きません。依頼の範囲を決めるときは、まずそちらを見てください。
会社設立の手続きをご自身で行うことも、もちろんできます。本人申請は合法で、現実的な選択肢のひとつです。時間を買うために依頼するのか、判断の難しいところだけ専門家に見てもらうのか。決め方は人によって違ってよいはずです。制度は変わりますので、この記事は2026年9月1日時点で確認した内容として読み、実際に動かれるときは各セクションの出典で最新の案内をご確認ください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。