会社設立で頼める人が資格ごとに違うのはなぜか|独占業務という仕組みを条文から読む
この記事が役に立つ場面
- 会社設立の依頼先を調べていて、「登記は司法書士」「税務は税理士」という説明そのものは何度も見たけれど、なぜそう決まっているのかが書かれていないことに引っかかっている方。
- 「登記から税務までまとめて代行します」という案内を見たときに、それが仕組みとして成り立つ話なのか、それとも踏み込みすぎた案内なのかを、自分で判断できるようになりたい方。
- この記事で扱うのは、独占業務という制度そのものです。どの資格が何をできるかという結論だけでなく、その結論を導いている条文と、条文どうしのつながり方を追いかけます。特定の事務所やサービスを比べたり、順位を付けたりはしません。
1会社設立で「頼める人」が決まっているのは、独占業務があるからです

会社設立の準備を始めると、「登記は司法書士に」「税務の届出は税理士に」という説明にすぐ行き当たります。ところが、そう書かれている理由まで説明している記事はあまり多くありません。専門家の得意分野の話に見えて、実は違います。答えは一つで、それぞれの資格に独占業務があるからです。
独占業務とは、その資格を持つ人だけが、他人の依頼を受け、報酬を得て、業として行える仕事のことをいいます。資格を持たない人がその仕事を引き受けると、法律違反になります。会社設立に関わる士業では、司法書士法・行政書士法・税理士法・社会保険労務士法が、それぞれ自分の担当する仕事を条文で名指ししています。
なぜこういう制度があるのかというと、これらの仕事の相手が国や地方公共団体などの官公署で、しかも手続きの誤りが依頼した本人の権利に直接はね返るからです。登記を誤れば会社の内容そのものが違って公示されますし、税務の申告を誤れば納税額が変わり、社会保険の届出が漏れれば働く人の保障が抜け落ちます。そこで、一定の試験と登録、そして懲戒の仕組みを通した人にだけ、その仕事を任せる建て付けになっています。

この記事で「行えない」と書いているのは、他人の依頼を受けて報酬を得て、業として行うことができないという意味です。会社設立の書類を自分で作り、自分で申請することは、どの資格も持っていない人にも認められています。独占業務の話と、本人が手続きする話は、はじめから別の場所にあります。
会社設立の依頼先として名前の挙がる専門家が、どれも国家資格を前提にしているのは偶然ではありません。以下では、独占業務という言葉の中身を整理したうえで、会社設立に関係する条文を順番に並べ、そのうえで「行政書士は定款を作れるのに登記申請書類は作れない」という一見ちぐはぐな結論が、どの条文から出てくるのかを追いかけます。
出典行政書士制度(総務省) Shift_JIS 配信。
2名称の独占と業務の独占は、別のものです

独占業務という言葉を追いかけると、すぐ隣に「名称独占」という言葉が出てきます。この二つは似た形をしていますが、制限している対象がまったく違います。会社設立の依頼先を見分けるうえでも効いてくるので、先に切り分けておきます。

ここが会社設立の依頼先を見るときの勘どころです。「会社設立サポート」「設立支援」といった名乗り自体は、誰が使っても禁じられていません。資格制度のない呼び名だからです。けれども、その名乗りの下で行う仕事の中に独占業務が含まれていれば、そこは資格の問題になります。看板の言葉ではなく、実際に引き受けている仕事の中身で見る必要があるのは、このためです。
会社設立の依頼先を検討するときに聞くべきなのは、「御社は何ができますか」ではなく「登記はどなたが担当されますか」「税務の届出はどなたが担当されますか」です。担当する専門家の資格が答えとして返ってくるかどうかで、その案内の輪郭がはっきりします。
なお、事務所の中に複数の資格者がいる場合や、外部の専門家と提携している場合は、窓口が一つでも中では担当が分かれています。これは制度に沿った形で、依頼する側にとっては手間が減る仕組みです。確かめたいのは提携しているかどうかではなく、それぞれの独占業務を、その資格を持つ人が担当しているかという一点です。
出典No.9203 税理士制度について(国税庁) Shift_JIS 配信。
3会社設立に関係する独占業務を、条文で並べてみます

ここからは条文そのものを見ます。会社設立の依頼先を分けている法律は四つ。司法書士法、行政書士法、税理士法、社会保険労務士法です。それぞれが自分の業務を先に定義し、そのうえで資格のない人がそれを行うことを禁じる、という同じ形をしています。
司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること。(略)
五 前各号の事務について相談に応ずること。
会社設立の登記は、法務局に対する登記の手続きです。その代理が1号、登記申請書類の作成が2号、登記の相談が5号。会社設立の中心にある仕事が、まとめて司法書士の業務として書かれていることが分かります。
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
こちらは書類の種類で線を引いています。定款は会社と発起人の権利義務を定める書類なので、権利義務に関する書類として行政書士の業務に入ります。許認可の申請書類は官公署に提出する書類そのものです。なお、2026年5月21日施行の改正で条番号が繰り下がっており、業務を定める条は1条の2ではなく1条の3です。

四つ並べると、会社設立でやることの割り振りがそのまま浮かび上がります。登記は司法書士法、定款と許認可は行政書士法、税務の届出は税理士法、社会保険と労働保険の届出は社会保険労務士法。どの法律も、他の法律の担当分野には手を伸ばしていません。会社設立を一つの資格で引き受けられない理由は、この並びを見れば分かります。
そして、条文の並びから外れているところにも意味があります。会社の商号や事業目的をどうするか、資本金をいくらにするか、誰を役員にするか。こうした中身を決める部分は、どの法律の独占業務にも入っていません。決めるのは発起人自身で、専門家はそこに助言をする立場です。会社設立の依頼で最初にやることが「決めてもらう」ではなく「決める」なのは、この構造から来ています。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
4行政書士に登記をさせていないのは、この但し書きです

会社設立の依頼先でいちばん誤解されやすいのが、行政書士と登記の関係です。行政書士は官公署に提出する書類を作成できると条文に書いてある。登記申請書は法務局という官公署に出す書類です。それなら作れそうに読めます。ところが作れません。理由は、業務を定めた条文のすぐ次の項にあります。
行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
「他の法律において制限されているもの」という言い方で、他の士業法が先に押さえている仕事を、まるごと除外しています。登記申請書類の作成は司法書士法3条1項2号が司法書士の業務としているので、この除外に当たります。だから行政書士は、書類の作成という自分の土俵の中にいながら、登記だけは扱えません。

同じ形の但し書きは、司法書士法3条8項にも置かれています。司法書士の業務であっても、他の法律で制限されているものは行えない、という規定です。士業法どうしが互いに譲り合う構造になっていて、担当が二重になったり、逆に誰も担当できない隙間ができたりしないように組まれています。
なお、税理士と登記の関係は、行政書士とは仕組みが違います。税理士法2条1項が業務としているのは税務代理・税務書類の作成・税務相談の三つで、登記はそもそも書かれていません。行政書士は「いったん入りかけて但し書きで外れる」、税理士は「はじめから入っていない」。結論はどちらも同じで、会社設立の登記は担当できません。
税理士事務所や行政書士事務所の案内に「会社設立を最初から最後までお引き受けします」と書かれていることがあります。この多くは、登記の部分を提携する司法書士が担当するという組み立てで、制度に沿った形です。確かめるべきなのは案内の言葉づかいではなく、登記を担当するのが司法書士かどうか。ここが答えられる依頼先なら、心配は要りません。
出典行政書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2026年5月21日施行の改正で条がずれた。現行は1条の3が業務、1条の4が代理等、1条の2は職責。19条1項違反の罰則は21条の2(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
5独占業務の外側にあるもの。本人申請とツールの位置づけ

ここまで見てきた制限は、どれも同じ前提の上に立っています。条文をよく読むと、「他人の依頼を受け」「報酬を得て」「業として」という言葉が並んでいることに気づきます。この三つがそろわない場面には、独占業務の制限はそもそも及びません。

法務局は商業・法人登記の申請書様式と記載例を公開していて、登記・供託オンライン申請システムからの申請にも対応しています。デジタル庁の法人設立ワンストップサービスを使えば、定款認証や設立登記から税・年金・労働保険の届出までを本人の名前でまとめて申請できます。時間を掛けられるなら、依頼しないという選択も十分に成り立ちます。
会社設立の書類作成ツールが合法なのも、同じ理屈です。ツールは本人が書類を作るための道具であって、ツールの提供者が本人に代わって書類を作成しているわけではありません。作った書類を法務局に出すのは本人か、依頼を受けた司法書士です。ツールが申請の代理をすることはありません。
もう一つ、条文の側にも動きがあります。行政書士法19条1項のただし書には、「他の法律に別段の定めがある場合」に加えて、総務省令で定める定型的な手続について総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合という除外が置かれています。資格がなければ一切関われない、と単純化して書けない部分があるということです。会社設立の依頼先を検討するときも、「無資格なら全部だめ」ではなく、その仕事が独占業務に当たるかどうかで見ていくのが正確です。
出典商業・法人登記申請手続(法務局)
6独占業務に反したとき、法律は何を定めているか

士業法はどれも、業務を定める条文とは別に、資格のない人がその業務を行うことを禁じる条文を置き、さらにその違反に対する罰則を置いています。三段構えです。会社設立に関係する四つの法律について、この対応を並べておきます。
| 法律 | 業務を定める条文 | 禁止する条文 | 罰則の条文と内容 |
|---|---|---|---|
| 司法書士法 | 3条1項1号〜5号 | 73条1項 | 78条1項|1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 行政書士法 | 1条の3第1項 | 19条1項 | 21条の2|1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 税理士法 | 2条1項1号〜3号 | 52条 | 59条1項4号|2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 社会保険労務士法 | 2条1項1号〜2号 | 27条 | 32条の2第1項6号|1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
条文は e-Gov法令検索で現行の内容を確認しています。行政書士法は2026年5月21日施行の改正で条番号が繰り下がっており、19条1項違反の罰則は21条ではなく21条の2です。
四つのうち税理士法だけが2年以下で、他より重く置かれています。税務代理と税務書類の作成が、納税額という金銭に直結するためだと説明されます。会社設立の場面でいえば、法人設立届出書や青色申告の承認申請といった税務の届出を、資格のない人が報酬を得て作成すれば、この条文の射程に入ります。
2025年6月1日から、刑法の改正にともなって「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。いまも「1年以下の懲役」と書かれている解説は、それより前の条文をそのまま引き写したものです。会社設立の依頼先を調べていて罰則の記述を見かけたら、その記事が条文をいつ確認したのかを手がかりにしてください。
ここで押さえておきたいのは、これらの罰則が業として引き受けた側に向けられているという点です。条文の主語はいずれも「司法書士でない者」「行政書士又は行政書士法人でない者」「税理士又は税理士法人でない者」「社会保険労務士でない者」であって、依頼した側を名宛人とする規定ではありません。
なお、この記事では特定の事業者を名指ししたり、実在するサービスを違法だと結びつけたりはしません。制度の側を正確に書くことと、個別の事業者の適法性を判断することは、まったく別の作業だからです。会社設立の依頼先について気になることがあれば、次の見出しに挙げる窓口で確かめてください。
出典税理士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項が業務(1号税務代理・2号税務書類の作成・3号税務相談)、3条1項4号が公認会計士の資格、51条が弁護士の通知、52条が業務の制限、59条1項が罰則(2年以下の拘禁刑又は1…
7では、依頼した側はどうなるのか

独占業務の話をすると、必ず出てくる不安があります。「資格のない相手に会社設立を頼んでしまったら、登記は無効になるのか」「全部やり直しになるのか」というものです。結論から書くと、この記事ではどちらとも断定しません。断定できるだけの根拠を、公開されている一次情報から示せないからです。
理由を三つに分けて説明します。第一に、登記が効力を持つかどうかと、書類を誰が作ったかは、別の条文が扱う問題です。第二に、依頼した側と引き受けた側の契約がどう扱われるかは、契約の中身や事情によって変わります。第三に、これらはいずれも個別の事案の判断であって、記事の側で「こうなります」と決められる性質のものではありません。
個別の事案について「あなたの場合は問題ありません」「この登記は無効です」と書くことは、判断そのものを引き受けることになります。会社設立の依頼で気がかりなことが起きたときは、一般論を読むよりも、実際の書類を見てもらえる窓口に持ち込むほうが早く片づきます。
- 登記そのものについて法務局が商業・法人登記の手続案内を行っています。申請した登記の内容や、必要な手続きについてはここが窓口です。
- 資格の有無を確かめたい各士業の全国団体が会員の検索を公開しています。氏名や事務所名で、登録された有資格者かどうかを確かめられます。
- 税務の届出について気になる国税庁が、資格のない者による税務相談への注意喚起と、税理士の探し方の案内を出しています。所轄の税務署に相談することもできます。
- 支払いや契約でもめている消費生活センターや国民生活センターが、起業をめぐる相談を受け付けています。事業者間の取引でも、相談の入口としては使えます。

そのうえで、依頼する前に気づけるようにしておくほうが、ずっと確実です。独占業務の考え方が分かっていれば、次のような案内には引っかかりを覚えられるようになります。登記まで自社で代行すると書いているのに、どこにも司法書士の記載がない。見積書に司法書士の報酬の欄がないのに、登記まで含むと説明される。担当する専門家の資格を尋ねても、明確な答えが返ってこない。
これは特定の事業者を疑ってかかるための話ではありません。会社設立の依頼先の多くは、制度に沿って提携先の専門家と分担しています。尋ねれば普通に答えが返ってくるというのが、いちばんの目印です。
出典No.9204 にせ税理士にご注意(国税庁)
8まとめ|独占業務が分かれば、会社設立の依頼先の地図が読めます

会社設立の依頼先が資格ごとに分かれている理由を、独占業務という制度からたどってきました。要点を短くまとめます。
- 独占業務は、資格者だけが業として行える仕事のこと他人の依頼を受け、報酬を得て、業として行う場合に制限が働きます。
- 名乗りの制限と仕事の制限は別のもの名乗りが自由でも、その中身に独占業務が含まれれば資格の問題になります。
- 会社設立に関係する条文は四本司法書士法3条1項、行政書士法1条の3、税理士法2条1項、社会保険労務士法2条1項。
- 但し書きが担当を切り分けている「他の法律において制限されているもの」という一文が、行政書士から登記を外しています。
- 罰則は引き受けた側に向けられている罰は拘禁刑と罰金で、法律ごとに重さが違います。
- 本人申請は制度の外側にある自分の会社の会社設立を自分で申請することは、はじめから制限の対象ではありません。
条文を自分で確かめる方法
この記事の内容は、すべて e-Gov法令検索で公開されている現行条文にもとづいています。同じ手順は誰でも踏めます。法令名で検索して本文を開き、条番号をたどるだけです。会社設立の解説記事を読むときは、条番号が現行のものかどうかを確かめる癖をつけておくと安心です。
行政書士法は2026年5月21日施行の改正で条が繰り下がりました。業務を定める条は1条の2から1条の3へ、代理などを定める条は1条の3から1条の4へ移り、現行の1条の2は「職責」の条になっています。古い記事の条番号をそのまま写している解説は、この点でいまの条文とずれています。

独占業務という言葉は堅苦しく見えますが、要するに「この仕事は、この資格の人が責任を持って引き受ける」という取り決めです。会社設立を誰に依頼するかで迷ったら、まず自分が頼みたい仕事がどの取り決めの中にあるのかを探してください。そこから逆に見れば、声をかける専門家はひとつに絞れます。法令も統計も改正・更新されますので、実際に判断されるときは、記事に添えた出典で最新の内容をご確認ください。
出典e-Gov 法令検索(デジタル庁)
条文の構造が分かると、案内の言葉に振り回されなくなります
独占業務は、士業の既得権を守るための制度ではなく、申請を受け取る側と、その申請で権利が動く本人を守るための制度です。登記は会社の存在そのものを決め、税務の申告は納税額を決め、社会保険の届出は働く人の生活に直結します。だから、そこに関わる書類の作成と手続きの代理を、一定の知識と責任を負う人に限っている。会社設立の依頼先が資格ごとに分かれているのは、この考え方の結果です。
そう考えると、依頼するときに見るべきところもはっきりします。事務所の名乗りや案内文の勢いではなく、その仕事を誰が担当するのか。会社設立の相談で登記の話が出たら、担当するのは司法書士か弁護士です。税務の話が出たら税理士です。この対応がずれている案内を見かけたら、そこで一度立ち止まって、担当者の資格を確かめてください。
そして、会社設立を自分の手で申請するのであれば、この記事で見た制限はどれも掛かりません。独占業務は他人の依頼を受けて報酬を得る場合の話であって、本人が自分の会社の登記を申請することは制度として当然に認められています。依頼するか、自分で進めるか。どちらを選ぶにしても、線引きの根拠を知ったうえで決めれば、判断の質は上がるはずです。個別の事情については、それぞれの専門家や所管の窓口にご相談ください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。