本人申請と会社設立ツールの位置づけ|ソフトは合法、ただし申請するのは本人です
この記事でお答えするのは、次のような疑問です
- 会社設立の書類を作るツールの広告を見て、あれを使えば専門家に依頼しなくてもいいのか、そもそもあれは法律的に問題ないのかが気になっている方。
- 「本人申請」という言葉をあちこちで見かけるものの、代理申請と何がどう違うのかがはっきりしないまま読み進めている方。
- この記事では、会社設立の手順や書類の書き方は扱いません。扱うのは、本人申請とは何か、ツールがなぜ合法なのか、ツールで何ができて何ができないのか、という位置づけの話だけです。判断の分かれ目そのものは、同じカテゴリーの別の記事で書いています。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
1まず「本人申請」という言葉の意味をそろえます

会社設立の調べものをしていると、本人申請という言葉によく行き当たります。特別な制度の名前のように見えますが、中身はごく単純で、申請人が自分で申請するというだけのことです。会社設立の登記でいえば、設立する会社の代表者や発起人が、自分の名前で法務局に申請書を出す形を指します。
ここで押さえておきたいのは、ツールを使う会社設立も本人申請だということです。ソフトが申請人になるわけでも、ソフトの提供会社が代理人になるわけでもありません。書類を作るときの道具が紙とペンから画面に変わっただけ、という理解でおおむね合っています。
法務局は、商業・法人登記の申請手続について様式と記載例を公開し、登記手続案内という相談の窓口も設けています。本人が申請することは、制度として当たり前に想定されています。「資格がないと会社設立の手続きに触れてはいけない」ということはありません。
当サイトでは、会社設立を自分で進める手順そのものは扱いません。申請書の書き方や記入例は、法務局の様式・記載例と、手順を専門に扱っているサイトのほうが詳しいためです。ここで書くのは、本人申請とツールが依頼というものの中でどこに位置するかだけです。
出典商業・法人登記申請手続(法務局)
2資格がなくても自分の会社設立ができる、条文上の理由

士業には独占業務があります。会社設立でいえば、登記申請の代理は司法書士と弁護士、税務は税理士、というように分かれています。ではなぜ、資格のない本人が自分の会社設立の書類を作って申請できるのか。答えは条文の書き方にあります。
司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
禁じられているのは「業務を行う」ことです。そして3条1項の柱書は「他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする」と書いています。つまり、他人の依頼であること、業として反復継続すること、この二つがそろってはじめて独占業務の話になります。自分の会社のために自分で書類を作ることは、どちらにも当たりません。

この線引きが分かると、会社設立まわりの話がかなり整理できます。本人が自分のためにやることは自由、他人のために報酬をもらってやるには資格が要る。ツールも、無資格の代行業者も、この線のどちら側にいるかで評価が分かれます。
念のため書き添えますが、本人申請ができるからといって、専門家に依頼するのが無駄だということではありません。依頼する価値は、手続きを代わってもらう点だけでなく、決めるところを一緒に考えてもらえる点にもあります。どちらを選ぶかは、この記事の範囲を超えた別の判断です。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
3会社設立のツールは、結局なにをするソフトなのか

会計ソフトの事業者などが提供している会社設立のツールは、画面に沿って商号・本店・事業目的・資本金・役員といった項目を入力していくと、定款や登記に使う書類の案文を組み立てて出力するソフトです。何を入力すればよいかの案内が付いていることが多く、はじめての方でも空欄の前で止まりにくいように作られています。
ここで大事なのは、出力された書類の作成者は本人だということです。ソフトは入力内容を書式に流し込む役割で、内容を決めているのは入力した本人です。そして出来上がった書類を公証役場や法務局に持っていくのも本人です。ツールが会社設立の申請を代理することはありません。

表の「助けるところまで」という欄が、ツールの位置を表しています。書類の形にするところは助けてくれるが、決めるところと出すところは本人に残る。これがツールの守備範囲です。
法人設立ワンストップサービスや、登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトも、本人が申請するための仕組みです。使えば手続きが楽になりますが、これらが代理をしてくれるわけではありません。民間のツールと公的な仕組みで、位置づけに違いはありません。
出典会社設立手続きは自分でできる?かかる費用や必要な手続きを解説(弥生) 実務上の運用の補助として使う。
4ツールが合法である理由と、無資格の代行との境目

「無資格の業者が会社設立の書類を作るのは違法なのに、ツールはなぜよいのか」という疑問は自然なものだと思います。ここは、書類の作成者が誰かで分かれます。
行政書士法19条1項は、行政書士でない者が、他人の依頼を受け、報酬を得て、業として、権利義務に関する書類を作成することを禁じています。定款はこの権利義務に関する書類に当たります。無資格の業者が報酬を受け取って依頼者の定款を作れば、ここに触れます。罰則は21条の2で、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
これに対してツールは、本人が自分で書類を作るための道具を提供しているという立て付けです。入力するのも、内容を決めるのも、出力された書類を使うのも本人です。事業者が依頼者に代わって書類を作成しているわけではないため、19条1項が問題にする場面とは別のものになります。
ですから、ツールを使うこと自体に法的な問題はありません。「無資格だから危ない」という話と、ツールの話を混ぜないでください。混ぜてしまうと、合法で現実的な選択肢を自分で消してしまうことになります。
会計ソフトの事業者が提供しているもの(freee会社設立、マネーフォワード会社設立など)が知られていますが、当サイトではどれが優れているかという比べ方はしません。書いているのは、この種のツールが法律上どこに位置するかまでです。機能や料金は各社の公式ページでご確認ください。
出典行政書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2026年5月21日施行の改正で条がずれた。現行は1条の3が業務、1条の4が代理等、1条の2は職責。19条1項違反の罰則は21条の2(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
5ツールを使っても、本人に残るもの

ツールを使う会社設立で、思ったより負担が残るのは書類を書く作業ではないところです。順に挙げておきます。
- 内容を決めること商号、事業目的、資本金の額、決算期、役員の構成。ツールは選択肢を示しますが、選ぶのは本人です。あとから変えるには登記や定款の変更が要るものもあります。
- 書類を出しに行くこと公証役場での定款認証(株式会社の場合)と、法務局への登記の申請。オンラインで完結できる場合もありますが、申請人は本人のままです。
- 期限を管理すること出資金の払込のタイミング、設立後の税務の届出、社会保険の届出。期限の管理はツールの外側にあります。
- 補正の連絡を受けること書類に不備があった場合、法務局からの連絡は申請人である本人に来ます。直して出し直すのも本人です。

費用の面もひとこと添えておきます。会社設立の費用は実費(法定費用)と報酬に分かれ、実費は誰に依頼しても、ツールを使って自分で手続きしても同じ額です。登録免許税や定款認証の手数料は、やり方によって変わりません。ツールを使うことで動くのは、専門家に払う報酬の部分だけです。
出典法人設立ワンストップサービス(デジタル庁) 旧URL app.houjin-portal.go.jp は存在しない。ドメイン直下は404なのでフルパスで書く。
6ツールが答えてくれない場面は、はっきりしています

ツールは、多くの人に共通する形の会社設立をなぞるように作られています。裏を返すと、共通しない事情が入ると、とたんに答えが出なくなります。具体的には次のような場面です。
- 許認可が要る業種で、事業目的の書き方が許可の審査に関わる場合。行政書士の相談の対象です。
- 発起人や役員が複数いて、出資の割合や議決権の取り決めがある場合。当事者間の話し合いの中身は、ソフトの外にあります。
- 現物出資がある場合。金額や中身によって手続きが増えます。
- 設立後の税務をどう組み立てるか。資本金の額や決算期は、登記が終わってからでは変えにくいものです。
- 書類に不備があって補正を求められた場合。何をどう直すかの判断が要ります。
これらは、ツールの出来がよくないから答えられないのではなく、個別の事情に対する判断が要るから答えられないという性質のものです。判断そのものは、それぞれの分野の専門家の仕事になります。
ツールを使いながら、迷うところだけ専門家に相談するという進め方もあります。定款の内容だけ見てもらう、登記の部分だけ司法書士に依頼する、といった形です。依頼は、全部か無かではありません。どこで切り替えるかは、同じカテゴリーの別記事で扱っています。
なお、公的な相談の窓口も使えます。法務局の登記手続案内、商工会議所の創業相談、よろず支援拠点などです。ただし、窓口では代理までは行いません。書類の作成や申請を代わってもらう段になれば、そこはやはり資格を持つ専門家への依頼になります。
出典よくあるご質問等<商業・法人登記関係 – 法務局(法務局)
7「ツールの操作サポート」を名乗る案内の読み方

ツールが合法であることを利用して、無資格のまま実質的に代行している案内が混ざることがあります。特定の業者を名指しするつもりはありませんので、確かめ方の形で書きます。
- 「登記まで代行します」と書いてある登記申請の代理を業として行えるのは司法書士と弁護士です。誰が担当するのかが書かれていなければ、「登記はどなたが担当されますか」と聞いてください。提携する司法書士が担当する形であれば問題ありません。
- 報酬を受け取って定款を作ると読める定款は権利義務に関する書類です。報酬を得て業として作成できるのは行政書士・司法書士・弁護士です。「本人が作るのを手伝う」なのか「こちらで作る」なのかを確かめてください。
- 税金の相談に踏み込んでいる税務相談は税理士の業務です。資本金や決算期の税務上の有利不利にまで踏み込む案内は、担当する税理士がいるかどうかの確認が要ります。
- 資格の記載がまったくない事務所名に士業の名称や登録番号の記載があるか。各士業の全国団体の会員検索で確かめられます。
無資格で業として行った場合の罰則は、司法書士法78条1項が1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金、行政書士法21条の2が1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金、税理士法59条1項4号が2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。2025年6月1日から「懲役」は「拘禁刑」に変わっていますので、古い記載を写さないでください。
繰り返しになりますが、ツールそのものは合法です。問題になるのは、ツールを持ち出しながら、実際には無資格者が報酬を得て書類を作ったり申請を代理したりする場合です。案内の言葉から、誰が何をするのかを読み取ってください。
出典ニセ司法書士にご用心(東京司法書士会)
8まとめ|ツールは合法で、位置は「本人申請の道具」です

ここまでの内容を、短くまとめます。会社設立でツールを使うかどうかを考えるときの土台になる部分です。
- 本人申請は合法独占業務の条文が禁じているのは、他人の依頼を受け、報酬を得て、業として行うことです。自分の会社設立を自分で進めることは、その外側にあります。
- ツールも合法本人が書類を作るためのソフトだからです。事業者が依頼者に代わって書類を作成しているわけではありません。
- ツールは代理しない公証役場でも法務局でも、申請人は本人のままです。ツールが会社設立の申請を代理することはありません。
- 決めるところは残る事業目的、資本金、役員構成。ツールは書式を用意しますが、内容を決めるのは本人です。
- 実費は変わらない登録免許税や定款認証の手数料は、誰に依頼しても自分で手続きしても同じ額です。動くのは報酬の部分だけです。
- 迷う部分だけの依頼もできる全部を任せるか、まったく頼まないかの二択ではありません。
依頼するときは、資格の確認まで含めて
ツールから専門家への依頼に切り替える場合でも、相手が登録された有資格者かどうかは確かめられます。日本司法書士会連合会、日本行政書士会連合会、日本税理士会連合会などが会員の検索を公開しています。これは特定の事務所を勧めるものではなく、どの依頼先を選ぶ場合にも共通して使える確認の手段です。
制度も運用も変わります。この記事は2026年9月1日時点で確認した内容です。ツールの機能や対応範囲は提供事業者によって異なりますし、更新もされますので、実際に使われるときは各社の公式ページと、記事に添えた出典で最新の内容をご確認ください。個別の可否については、それぞれの分野の専門家にご相談ください。
出典司法書士検索(日本司法書士会連合会) 旧ドメイン kensaku.shiho-shoshi.or.jp は証明書のホスト名不一致で使えない。
ツールは道具で、判断する人ではありません
会社設立のツールは、入力した内容を書類の形に組み立ててくれる道具です。道具としては優秀ですが、あなたの会社にとって何が正しいかを決めてはくれません。事業目的に何を書くか、資本金をいくらにするか、役員を何人にするか。決めるのは本人で、ツールはそれを書類の形にするところを助けます。
ですから、ツールを使うか専門家に依頼するかは、二者択一ではありません。決めるところに迷いがないならツールで足りますし、決めるところに迷いがあるなら、そこだけ相談してから使うこともできます。会社設立の依頼は、全部か無かではありません。
そして、ツールを使っても専門家に依頼しても、登録免許税や定款認証の手数料といった実費は同じ額です。差が出るのは報酬の部分だけです。金額の話に入る前に、まずこの位置づけを押さえておいてください。ツールの案内文に「代行」「代理」という語が混ざっていたら、それは誰が担当するのかを確かめる合図だと考えてください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。