会社設立の見積書はどこを見るか|実費と報酬が分かれているか、範囲はどこまでか
この記事は、見積書が手元にある方のために書いています
- 会社設立の依頼先から見積書が届いたものの、項目名の意味が分からず、金額が妥当なのかも判断できないという方。
- 複数の事務所から見積もりを取ったけれど、書き方がばらばらで比べようがないと感じている方。
- この記事では、個別の見積もりが高いか安いかの判断はしません。どこを見れば比べられる形になるかという観点だけを並べます。費用の内訳表や試算も作りません。金額の妥当性は、必ず依頼先の専門家に直接お尋ねください。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
見積書に何が書かれているのかを、先に把握する

会社設立の見積書に決まった書式はありません。事務所ごとに項目の立て方が違うので、まずどの部分が何を指しているかを把握するところから始まります。おおむね次の要素でできています。
会社設立の見積書を読むときにいちばん困るのは、この五つが混ざっている場合です。「会社設立一式 ◯円」とだけ書かれていると、実費が入っているのかも、どこまでやってくれるのかも分かりません。その場合は、分けて出し直してもらうよう頼んでかまいません。多くの専門家は、その依頼を当然のものとして受けてくれます。
項目の名前は事務所によって違います。「定款作成」「定款起案」「定款作成支援」のように似た言葉が並ぶこともありますし、「設立登記申請」「登記代理」のように同じ作業を別の言い方で書いていることもあります。言葉の違いに引っかかるより、その項目で何をしてくれるのかを聞くほうが早く済みます。会社設立の依頼は、その確認から始まると考えてください。
電話や口頭で金額を聞いただけだと、含まれる範囲の記憶が食い違いやすくなります。電子データでも構いませんので、項目と金額が書かれたものを残しておいてください。あとで追加費用の話が出たときに、最初の範囲を確かめられます。
出典会社設立は誰に頼む?司法書士・行政書士・税理士に依頼できること(マネーフォワード) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
最初に見るのは、実費と報酬が分かれているかどうか

会社設立の見積書で、いちばん最初に見るのはここです。実費と報酬が分かれて書かれているかどうか。分かれていない見積書は、他と比べることができません。

左側は、どの専門家に依頼しても、自分で手続きしても同じ額です。安くしてもらえる部分ではありません。ですから、複数の専門家の見積書を比べるときに意味があるのは右側だけ、ということになります。
見積書によっては、実費が「法定費用」「立替金」「実費相当額」といった名前で書かれています。呼び名が違っても中身は同じです。立替金として事務所がいったん支払い、あとで精算する形をとっている場合もありますので、支払いの時期もあわせて確かめてください。
もう一つ、実費の中には必ずかかるものと、頼むかどうかで変わるものが混ざっています。登録免許税や定款認証の手数料は必ずかかりますが、登記事項証明書や印鑑証明書を何通取るかは、必要な数によって変わります。会社設立のあとに金融機関の口座開設や許認可の申請を予定しているなら、必要な通数を先に伝えておくと、見積もりが実際に近づきます。
紙の定款には収入印紙4万円がかかりますが、電子定款であれば不要です(印紙税法2条の課税対象が「文書」であるため)。専門家に依頼すると電子定款になるのが通常ですが、見積書に印紙代4万円が入っているなら、紙で作る前提になっていないかを確かめてください。ここは会社設立の見積もりで差が出やすいところです。
出典No.7191 登録免許税の税額表(国税庁)
「一式」と書かれていたら、範囲を確かめる

会社設立の見積書でよく見るのが「会社設立一式」「設立サポート一式」といった書き方です。これ自体は珍しくありませんが、中身は事務所によって違います。同じ言葉でも、定款の作成だけの場合と、認証と登記まで通しの場合があります。

参考になるのが、日本司法書士会連合会の報酬に関するアンケートの作り方です。あのアンケートは、「発起人2名、資本金の額500万円の株式会社の発起設立で、定款・議事録その他の書類の作成、定款認証手続及び登記申請の代理を含む」というところまで前提を書いたうえで金額を聞いています。金額を比べるには、それくらい前提をそろえる必要があるということです。
許認可の申請、設立後の顧問、社会保険の届出は、会社設立の見積もりとは別立てになっていることがほとんどです。「まとめてお願いします」と伝えていても、見積書の範囲に入っていなければ別料金になります。入っていないことが悪いのではなく、確かめずに進むのが問題です。
出典司法書士の報酬(日本司法書士会連合会) 2024年(令和6年)3月実施の報酬アンケート。会社設立登記の設例は発起人2名・資本金500万円の株式会社の発起設立で、定款認証手続と登記申請の代理を含む。有効回答932/平均10…
あとから追加になりやすい項目

会社設立の依頼で行き違いが起きやすいのは、最初の見積もりに入っていなかった作業が発生したときです。追加が出ること自体は自然なことなので、どういう場合に追加になるのかが書かれているかを見てください。
- 決めた内容を途中で変える商号、事業目的、資本金の額、役員の構成。定款を作り直す段階まで進んでから変更すると、作業がやり直しになります。
- 定款の認証をやり直す認証を受けたあとで内容を直す場合、手数料も手間も改めてかかります。
- 発起人や役員が増える必要な書類が増えます。人数で金額が変わる料金体系の事務所もあります。
- 現物出資がある現金以外のものを出資に充てる場合、手続きが増えます。
- 書類の取得を代行してもらう印鑑証明書や登記事項証明書の取得を頼むと、手数料と実費がかかります。
- 急ぎで進めてもらう特急料金を設けている事務所があります。会社設立の期限があるなら先に伝えてください。
それから、会社の形態を途中で変える場合も大きな変更になります。株式会社の前提で進めていて合同会社に切り替えると、定款認証が不要になる一方で、書類も登録免許税の額も変わります(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)。やり直しの範囲がどこまでかを確かめてください。
「この見積もりに入っていない作業を教えてください」「追加になるのはどういう場合ですか」。この二つを専門家に聞いておけば、あとの行き違いはかなり減ります。答えを見積書やメールの形で残しておくと、より確実です。
出典定款の認証に要する費用、株式会社設立の費用等はいくらですか(日本公証人連合会)
登記を担当するのは誰か、が書いてあるか

会社設立の見積書で見落とされやすいのが、それぞれの項目を誰が担当するのかです。金額の欄には出てこないことが多いので、意識して確かめる必要があります。
設立登記の申請を代理できるのは、司法書士と弁護士だけです(司法書士法3条1項1号、73条1項)。税理士事務所や行政書士事務所が会社設立の見積書を出す場合、登記の部分は提携する司法書士が担当しているのが通常です。これは何ら問題のある形ではありませんが、見積書の上では見えません。
三条一項 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
七十三条一項 司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
ですから、見積書を受け取ったら「登記はどなたが担当されますか」とひとこと聞いてください。事務所の中の司法書士なのか、提携先なのか。どちらでも構いませんが、誰も担当が決まっていないという答えが返ってきたら、そこは詰めておく必要があります。
税務の届出は税理士、社会保険の届出は社会保険労務士の業務です。税理士が社会保険の届出を代行することはできません。会社設立から設立後までをまとめた見積書であれば、それぞれの担当がいるかどうかを確かめてください。窓口が一つでも、中では複数の専門家が分担しています。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
消費税・立替金・支払いのタイミング

会社設立の見積書を並べて比べるときに、そろえておかないと差が出て見える要素が三つあります。細かいようですが、合計の見え方が変わります。
- 消費税報酬に対してかかります。税込表示と税別表示が混ざると、1割ほどの差が生まれます。どちらの表示かを確かめてそろえてください。
- 立替金の扱い登録免許税などを事務所が立て替える場合、見積書の合計に入っていることがあります。実費なので依頼先による差は出ませんが、合計の数字は大きくなります。
- 支払いのタイミング着手時に一部、完了時に残り、という形が多くあります。登記の実費をいつ渡すかもあわせて確かめておくと、資金の準備がしやすくなります。
参考までに、日本行政書士会連合会の報酬額統計調査(令和7年度)の数値は、消費税を含み、立替金は含まないという前提で集計されています。「会社設立手続」の平均は106,371円、最頻値110,000円、幅は7,000円から550,000円(回答287件)です。統計の数字と手元の見積書を比べるときは、この前提にそろえてから見てください。
支払いの方法も確かめておくと安心です。振込か現金か、実費をいつ渡すか。とくに登録免許税は登記の申請までに用意しておく必要があるため、資金の準備の予定に関わります。会社設立の直前は出ていくお金が重なりますので、時期まで含めて聞いておいてください。
料金ページの「◯円〜」は下限の表示です。どういう場合にその金額になるのかが書かれていなければ、実際の見積もりとは差が出ます。当サイトでは「最安」「業界最安値」といった表現は使いませんし、そうした表示を見たときは根拠と条件を確かめることをおすすめします。
出典報酬額の統計(日本行政書士会連合会) 令和7年度報酬額統計調査(令和8年1月実施)。消費税を含み立替金は含まない。会社設立手続は回答者287/平均106,371円/最小7,000円/最大550,000円/最頻値110,…
見積書を受け取ってから、契約するまで

会社設立の見積書が届いてから契約するまでに、確かめる順番を決めておくと迷いません。金額の判断はいちばん最後で構いません。

契約の前に確かめたことは、書面かメールで残しておいてください。「聞いたはず」「言っていない」という食い違いは、金額そのものより気持ちの負担が大きくなります。会社設立は一度きりの手続きですから、記録を残しておくだけで十分です。
それから、急かされて即決しないこともひとつの目安です。会社設立の依頼で、その場で決めないと不利になる要素はほとんどありません。じっくり読ませてもらえるかどうかも、依頼する専門家を選ぶ材料になります。
出典起業・副業をめぐる消費者トラブルの被害救済に関する調査報告(国民生活センター)
まとめ|見積書は「範囲」「実費と報酬」「担当」で読む

会社設立の見積書の読み方を、短くまとめます。
- 範囲どこからどこまでを引き受けるのか。「一式」なら内訳を出してもらいます。含まれていない作業も聞いておきます。
- 実費と報酬実費は誰に依頼しても自分で手続きしても同じ額です。比べる意味があるのは報酬の部分だけです。
- 担当登記は司法書士か弁護士、税務は税理士、社会保険は社会保険労務士、許認可は行政書士。見積書には書かれていないことがあります。
- 追加の条件どういう場合に追加になるかを、先に書面で確かめておきます。
- 表示のそろえ方税込か税別か、立替金が入っているか。そろえてから比べます。
- 電子定款かどうか紙の定款だと収入印紙4万円がかかります。見積書に印紙代が入っているかを見てください。
それでも判断に迷ったら
見積書の内容が妥当かどうかは、当サイトでは判断しません。個別の事情によって適正な範囲も金額も変わるためです。迷うときは、範囲をそろえたうえで複数の事務所から見積もりを取り、専門家の説明の分かりやすさもあわせて比べてください。相手が登録された有資格者かどうかは、各士業の全国団体の会員検索で確かめられます。
制度も実費の額も変わります。この記事は2026年9月1日時点で確認した内容です。実際の金額と条件は、各セクションに添えた出典で最新の内容を確かめたうえで、依頼先の専門家にご確認ください。
出典税理士情報検索サイト(日本税理士会連合会) 登録内容のほか懲戒処分の有無も確認できる。
見積書は、金額より先に「範囲」を読むものです
会社設立の見積書で最初に目が行くのは合計の金額だと思います。ただ、合計は範囲が決まってはじめて意味を持つ数字です。どこからどこまでを引き受けるのか、実費は含むのか、追加になるのはどういう場合か。ここが読めれば、金額は自然に比べられるようになります。
分からない項目があったら、遠慮なく聞いてください。質問に丁寧に答えてくれるかどうかは、それ自体が判断の材料になります。会社設立は多くの方にとって一度きりの手続きですから、聞かなければ分からないのが当たり前です。
そして、実費は誰に依頼しても自分で手続きしても同じ額です。見積書の中で事務所ごとに差が出るのは報酬の部分だけだ、という前提を持って読んでください。書面でもらう、範囲を書いてもらう、追加の条件を書いてもらう。この三つがそろえば、あとの行き違いはかなり減ります。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。