会社設立を依頼したあと、何がどの順で進むのか|段ごとに担当する専門家を添えて並べます
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立を専門家に依頼すると決めたものの、依頼したあとに何がどの順で進むのかが見えず、自分はいつ何をすればいいのか分からない方。
- 「登記は司法書士」「税務は税理士」という話は読んだけれど、それが会社設立のどの段で出てくるのかが結び付いていない方。
- この記事は、会社設立の手続きをご自身で進めるための手順書ではありません。申請書の書き方や記入例は書いていません。書いているのは、依頼したときに何がどの順で動くかと、その段を担当するのはどの専門家か、そして依頼した側の出番はどこかの三つだけです。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
まず全体を一枚で。会社設立の依頼は六つの段に分かれます

会社設立を専門家に依頼したときの進み方は、大きく六つの段に分かれます。順番はおおむね決まっていて、前の段が終わらないと次に進めない部分があります。まず全体を一枚で見てください。

この図でいちばん見ていただきたいのは、3段目と5段目で担当が入れ替わるところです。定款をつくるのは行政書士でもできますが、登記の申請を代理できるのは司法書士と弁護士だけです。ひとつの事務所に依頼していても、この境目で担当者が変わっていることがあります。
会社設立の依頼は、ひとつの資格で最初から最後まで完結するものではありません。窓口になる事務所がひとつでも、中では複数の専門家が分担しています。この形そのものに問題はありません。依頼する側から見て段の並びが分かっていれば、それで十分です。
出典株式会社の設立手続き(中小企業基盤整備機構 J-Net21)
一段目|相談して、依頼の範囲を決める

最初の段は相談です。ここで決まるのは金額だけではありません。むしろ大事なのは、会社設立のどこからどこまでを依頼するのかという範囲のほうです。範囲がずれたまま進むと、あとで「そこは含まれていません」という話になりやすくなります。
- 何を依頼するか定款の作成だけか、登記の申請までか、設立後の税務の届出まで含めるか。会社設立の依頼では、この三つの組み合わせが分かれ目になります。
- 誰が担当するか登記を担当する司法書士は事務所の中にいるのか、提携先か。どちらでも構いません。聞いておくと、あとの段で戸惑いません。
- 実費と報酬が分かれているか会社設立の費用は実費(法定費用)と報酬に分かれます。実費は誰に依頼しても、自分で手続きしても同じ額です。見積書でここが分かれているかを見てください。
- やり取りの方法対面か、オンラインか。書類は郵送か、電子でのやり取りか。会社設立の日程の組みやすさに直結します。
受任してもらう段では、委任状に署名や押印を求められることがあります。誰に何を委任するのかが書かれている書面ですので、担当する資格者の名前を確かめておくとよいところです。
相談の段で専門家がするのは、判断材料を出すことです。決めるのは依頼する側になります。分からないことをそのままにせず、その場で聞いてください。会社設立を扱い慣れた専門家であれば、聞かれて困る内容ではありません。
出典会社設立で代行できる手続きとは?専門家に依頼するメリット・デメリットと選び方(freee) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
二段目|会社の中身を決める。ここが最初の関門です

二段目は、会社の中身を決める段です。ここで止まる方がいちばん多いと思います。定款に書く内容が決まらないと、三段目に進めないためです。専門家は判断材料を出してくれますが、決めるのは依頼する側です。

この段を早く抜けるには、相談の前にだいたいの案を持っていくのがいちばんです。決めきれていなくても構いません。候補がいくつかある状態で相談すれば、専門家の側も判断材料を出しやすくなります。
出典会社法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 26条1項・30条が株式会社の定款と認証、575条が持分会社の定款(認証の規定はない)、579条が設立の登記による成立。
三段目|定款をつくり、株式会社は認証を受ける

決まった内容をもとに、三段目で定款をつくります。定款は権利義務に関する書類にあたるため、業として作成できるのは行政書士・司法書士・弁護士です。会社設立の依頼では、この段から専門家の手が本格的に動き始めます。
株式会社の場合は、つくった定款について公証人の認証を受けます。日本公証人連合会は、定款の認証は会社の本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人しかできないと案内しています。管轄区域外の公証人がした認証は無効になります。
会社法30条が認証を求めているのは26条1項の定款、つまり株式会社の発起人がつくる定款です。持分会社については575条が定款の作成を定めるだけで、認証を求める規定がありません。合同会社の会社設立では、公証役場に行く工程がまるごとなくなります。そのぶん段が一つ減ります。
依頼した場合、定款は電子定款になるのが通常です。紙の定款には収入印紙4万円がかかりますが、電子定款であれば不要です。印紙税法2条の課税対象が「文書」であり、電磁的記録は文書に含まれないためです。認証はテレビ電話を使って受けられるので、公証役場に出向かずに済むことも増えています。
内容の確認と、必要に応じた電子署名くらいです。ただし内容の確認は流さないでください。あとから定款を変えるには、変更の手続きと、登記事項であれば変更登記が必要になります。会社設立の段階で目を通しておくほうが早く済みます。
出典9-4 定款認証(日本公証人連合会) 拡張子・末尾スラッシュなしが実効URL。
四段目|出資金を払い込み、書類に署名か押印をする

四段目は、依頼する側の出番です。出資金の払込みと、書類への署名または押印は、専門家に代わってもらえません。会社設立の日程がここでつまずくことは少なくありません。
払込みは、発起人の個人名義の口座に対して行います。会社の口座は登記が終わるまで作れないためです。法務局が公開している添付書面の説明では、払込みを証する書面として、払込金受入証明書か、設立時代表取締役が作成した払込みを受けたことを証明する書面に預金通帳の写しなどをとじたものが挙げられています。
署名や押印が必要になる書類は、会社の形と役員構成によって変わります。発起人の同意書、就任承諾書、本店所在場所を決めた決議書などです。どれが必要かは依頼先が組み立てますので、依頼する側が自分で判断する必要はありません。届いた書類に、指示された箇所へ署名または押印して返す、という動きになります。
書類を紙でやり取りする場合、往復のぶんの日数がかかります。発起人や役員が複数いて、それぞれ別の場所にいる場合はさらに延びます。急いでいるなら、その事情を最初に伝えてください。電子署名を使える環境があれば、往復を減らせることがあります。
なお、会社設立で使う印鑑証明書には取得の時期の決まりがあります。法務局は、印鑑届書に添付する印鑑証明書について作成後3か月以内のものと案内しています。早く取りすぎても使えなくなることがあるので、取りに行く時期は依頼先に確認してください。
出典株式会社設立登記申請書(取締役会設置会社の発起設立):法務局(法務局) 添付書面の一覧と記載例
五段目|設立登記の申請。ここは司法書士か弁護士です

五段目が設立登記の申請です。会社設立の依頼でいちばん名前が挙がる部分でもあります。ここを業として代理できるのは司法書士と弁護士だけです。行政書士・税理士・社会保険労務士は、登記申請の代理も、登記申請書類の作成も行えません。
司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
同法3条1項1号が「登記又は供託に関する手続について代理すること」、2号が「法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること」を司法書士の業務としています。ただし書の「他の法律に別段の定めがある場合」に弁護士法3条が当たるため、弁護士も代理できます。違反した場合の罰則は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です(司法書士法78条1項)。
税理士事務所や行政書士事務所が会社設立を「まとめてお引き受けします」と案内している場合、この段は事務所の中の司法書士か、提携している司法書士が担当しています。これは通常の形で、問題はありません。気になれば「登記はどなたが担当されますか」と聞けば足ります。
申請先は、本店の所在地を管轄する法務局です。会社の成立日は、この申請をした日になります。設立の日を特定の日にしたい事情がある場合は、早めに依頼先へ伝えてください。ただし法務局の受付日や休日の関係で、希望どおりにならないこともあります。
出典商業・法人登記申請手続(法務局)
六段目その一|登記が終わったら、税務の届出

登記が完了すると、会社が成立したことになります。ここから先は届出の段です。まず税務のほうから見ます。税務書類の作成と提出を業として代理できるのは税理士です(税理士法2条1項1号・2号)。
- 法人設立届出書設立の日以後2か月以内に、納税地の所轄税務署長へ提出します。定款等の写しを添付します。都道府県と市町村にも同様の届出が要ります。
- 青色申告の承認申請書設立初年度は、設立の日以後3か月を経過した日と初年度終了の日のうち早いほうの前日までが期限です。期限を過ぎると初年度は青色申告ができません。
- 給与支払事務所等の開設届出書給与を支払う事務所を設けた場合の届出です。役員報酬を出すなら会社設立の直後から関係します。
- 登記事項証明書などの取得届出や口座の開設で使います。オンラインでの請求もできます。会社設立を依頼した場合、依頼先が取得して渡してくれることもあります。
期限が登記の完了ではなく設立の日から数える点に気をつけてください。登記の審査に日数がかかっても、期限の起算日は動きません。会社設立を依頼するときに、税務の届出まで範囲に含めるかどうかを決めておくと、この段で慌てずに済みます。
設立後の記帳と申告を税理士に任せるつもりがあるなら、この届出の段から同じ専門家に見てもらうのが自然です。逆に、届出だけを頼んで顧問契約は結ばないという形も選べます。セットにしなければならない決まりはありません。
出典C1-4 内国普通法人等の設立の届出(国税庁)
六段目その二|社会保険と労働保険の届出

もうひとつの届出が社会保険です。法人は、代表者ひとりであっても健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所になります。「従業員がいないから関係ない」とはなりません。会社設立の依頼で見落とされやすいところです。
新規適用届は、事実の発生から5日以内に年金事務所へ提出します。人を雇う場合は、これに加えて労働保険の保険関係成立届と、雇用保険の適用事業所設置届が出てきます。これらの書類の作成と提出代行を業として行えるのは社会保険労務士です(社会保険労務士法2条1項)。税理士・司法書士・行政書士は行えません。
会社設立の依頼で「登記まで」「税務の届出まで」と決めた場合、社会保険の段は範囲の外にあることが多くなります。それが不親切ということではありません。扱える資格が違うためです。範囲の外なら、社労士を紹介してもらえるかを聞いておくと切れ目がなくなります。
出典新規適用の手続き(日本年金機構)
まとめ|依頼する側の出番は三か所だけです

会社設立を依頼したあとの流れを、段ごとに見てきました。最後に、依頼する側から見た要点だけをまとめます。

- 段は六つ相談、決定、定款、払込みと押印、登記、届出。合同会社では定款認証がないぶん軽くなります。
- 担当は入れ替わる定款は行政書士・司法書士・弁護士、登記は司法書士・弁護士、税務は税理士、社会保険は社労士。ひとつの資格で全部はできません。
- 窓口がひとつでも中は分担税理士事務所に依頼しても、登記は司法書士が担当します。これは通常の形です。
- 依頼する側の出番は三か所決めること、そろえること、署名か押印をすること。ここが遅れると全体が後ろにずれます。
- 期限は設立の日から数える法人設立届出書は設立の日以後2か月以内。登記の完了日ではありません。
- 実費と報酬は別のもの登録免許税などの実費は、誰に依頼しても自分で手続きしても同じ額です。
制度も運用も変わります。この記事は2026年9月1日時点で確認した内容です。実際の日程や必要書類は依頼先の専門家に、登記の取り扱いについては管轄の法務局にご確認ください。個別の可否や見積もりの妥当性については、当サイトでは判断していません。
出典会社設立は誰に頼む?司法書士・行政書士・税理士に依頼できること(マネーフォワード) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
順番が分かれば、待ち時間の意味が分かります
会社設立の依頼で気持ちが落ち着かなくなるのは、進んでいるのかどうかが見えない時間があるからだと思います。定款の認証を待っている、登記の審査を待っている、こういう時間は依頼する側から見ると何も起きていないように見えます。段の並びと担当が分かっていれば、その時間に誰が何をしているのかが想像できます。
もうひとつ覚えておいていただきたいのは、依頼した側の出番は消えないということです。決めること、印鑑証明書をそろえること、書類に署名か押印をすること。この三か所だけは代わってもらえません。ここが遅れると、あとの段がすべて後ろにずれます。
各段の担当が誰になるのかは、依頼先によって組み方が変わります。事務所の中で完結することもあれば、提携している専門家に回ることもあります。どちらでも問題はありません。気になったときは「この段はどなたが担当されますか」と聞いてください。会社設立を扱い慣れた専門家であれば、すぐに答えが返ってきます。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。