会社設立を依頼する前に聞いておく5つの質問|案内の言い回しから、担当する資格者を確かめる
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立の依頼先とやり取りを始めたものの、案内の言葉がどこまでを指しているのかが読み取れず、そのまま契約してよいか迷っている方。
- 「まとめてお任せください」と言われたけれど、登記や税務を誰が担当するのかが説明されないままになっている方。
- 不安をあおるつもりはありません。会社設立の案内に使われる言い回しは、たいてい省略されているだけです。書いているのは、こう聞けば担当がはっきりするという質問の形と、返ってきた答えをどう読むか。それだけで、契約の前に確かめられることはかなり増えます。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
案内の言い回しは、資格の有無まで教えてくれません

会社設立の依頼先を探していると、似たような言い回しに何度も出会います。「まとめてお任せください」「面倒な手続きは全部こちらで」「最短で設立できます」。どれも読み手に安心してもらうための言葉で、それ自体に問題があるわけではありません。
ただし、これらの言葉は担当する資格者が誰なのかを含んでいません。会社設立は登記・定款・税務・社会保険・許認可に分かれていて、担当できる専門家が資格ごとに法律で決まっています。ひとつの資格で全部を引き受けることはできないので、「まとめて」という案内の裏には必ず分担があります。
分担があること自体は、なんの問題もありません。窓口がひとつで済むほうが依頼する側は楽です。確かめておきたいのは、その分担の中身だけです。そして、それは聞けば分かります。
- 聞くのは五つだけです登記の担当、定款の作成者、税務に答える人、依頼の範囲、費用の内訳。この五つで、たいていのことははっきりします。
- 言い方は難しくありません「登記はどなたが担当されますか」で足ります。資格を疑うような聞き方をする必要はありません。
- 答えは書面で残します口頭で聞いたことは、見積書や契約書に書かれているかを見ておきます。
- 答えられない場合その場で結論を出さず、持ち帰って別の依頼先にも同じ質問をしてみてください。比べれば違いが見えます。
会社設立の案内に使われる言葉の多くは、単に省略されているだけです。ここで並べているのは、省略されている部分を埋めるための質問であって、特定の事業者を違法だと述べるものではありません。同じ質問は、司法書士事務所にも税理士事務所にも、どの専門家に対しても同じようにできます。
出典会社設立は誰に頼む?司法書士・行政書士・税理士に依頼できること(マネーフォワード) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
「登記も全部うちでやります」と言われたときの聞き方

会社設立の依頼で最初に確かめるのが登記です。設立登記の申請の代理と、法務局に提出する書類の作成は、司法書士法3条1項が司法書士の業務として定めており、同法73条1項が資格のない者による実施を禁じています。ただし書により、弁護士も行えます。
ですから、「登記も含めて全部やります」という案内を見たときに聞くのは、「登記はどなたが担当されますか」です。これだけで足ります。

ここで押さえておきたいのは、「申請は本人がします」という説明があっても、書類の作成は別の話だということです。司法書士法73条1項が禁じているのは3条1項1号から5号までの業務で、そこには2号の書類の作成も、5号の相談も入っています。申請の主体が本人であることと、書類を誰が作ったかは、分けて考える必要があります。
会社設立の登記を自分で申請するのは、まったく問題のない選択肢です。法務局は申請書の様式と記載例を公開しており、完全オンラインでの申請にも対応しています。ここで確かめているのは、専門家に依頼する場合に誰が担当するのかであって、本人申請を否定するものではありません。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
「取り次ぎます」と「うちが登記します」は、意味が違います

返ってきた答えの読み方も決めておきます。会社設立の窓口でよく聞くのは、次の二つの言い方です。「提携している司法書士に取り次ぎます」と、「登記までうちでやります」。この二つは、意味が違います。

- 「取り次ぎます」という説明の場合窓口の事業者は紹介をするだけで、登記を担当するのは提携先の司法書士です。この形は一般的で、問題はありません。担当する司法書士の氏名を聞いておけば、登録も確かめられます。
- 「うちが登記します」という説明の場合その事務所の中に司法書士か弁護士がいるはずです。どなたが担当されますかと尋ねれば、名前が出てきます。
- 費用の見え方も変わります取り次ぐ形なら、窓口の報酬と司法書士の報酬が分かれるのが自然です。ひとまとめの金額しか示されないときは、内訳を尋ねてください。
- 連絡の窓口はどちらか分担がある場合、こちらが個別に説明して回るのか、窓口がまとめてくれるのか。ここは進めやすさに直結します。
どちらの形でも、専門家への会社設立の依頼として成り立ちます。選ぶ基準は「どちらが正しいか」ではなく、自分にとって進めやすいかどうかです。ただ、費用の内訳と連絡の取り方が変わってくるので、契約の前に確かめておくと後から慌てずに済みます。
出典司法書士の業務(日本司法書士会連合会)
定款を「作成します」と言えるのは誰か

三つ目の質問が定款です。定款は会社の根本規則を定める書類で、権利義務に関する書類に当たります。業として作成できるのは、行政書士・司法書士・弁護士です。
行政書士法1条の3第1項が「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする」と定め、19条1項が「行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない」としています。
ここで注目したいのが「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という部分です。料金の名前がサポート料でも事務手数料でも、報酬であることは変わらないという趣旨になります。逆に、報酬を得ない場合は19条1項の対象から外れます。
定款について「こちらで作成します」と言われた場合は、担当する行政書士・司法書士・弁護士が誰かを尋ねます。一方で「入力していただければ定款の形になります」「作成のお手伝いをします」という説明であれば、作成の主体は本人です。会社設立ツールを使う場合がこれに当たり、こちらは資格の問題になりません。どちらなのかを、言葉の違いで聞き分けてください。
聞き方はこうなります。「定款は、どなたが作成されますか。私が入力して作る形でしょうか」。この一言で、作成の主体がどちらなのかがはっきりします。どちらであっても構いません。分かっていればよいだけです。
なお、行政書士法は2026年5月21日施行の改正で条番号が繰り下がっています。業務を定める条は旧1条の2から現行1条の3へ移りました。古い解説では条番号が違っていることがあるので、条文を確かめるときは施行日と確認日に気をつけてください。
出典非行政書士行為について(大阪府行政書士会)
税金の質問に、誰が答えているか

四つ目が税務です。会社設立の相談をしていると、自然と税金の話になります。「資本金はいくらにすればよいか」「決算期はいつがよいか」「役員報酬はどう決めるか」。どれも、設立の前に決めておきたいことばかりです。
ただ、この領域は税理士法が担当を定めています。税理士法2条1項3号の税務相談は「申告等や申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずること」とされ、52条が資格のない者による税理士業務を禁じています。

ここで聞くのは、「税務のことは、どなたに確認されますか」です。「提携している税理士に確認します」と返ってくれば、それで十分です。担当する専門家がはっきりしていれば、話はそこで済みます。窓口の担当者が一般的な制度の説明にとどめ、個別の判断は税理士に回す。会社設立の窓口としては、これが自然な形です。
税理士法52条には報酬の要件がありません。行政書士法19条1項が「報酬を得て」と書いているのとは対照的で、無料の相談であっても税務相談に当たりうるという違いがあります。会社設立の相談の場で税金の具体的な数字が出てきたときは、答えているのが税理士かどうかを確かめておくと安心です。
なお、一般的な制度の説明であれば、資格がなくても行えます。法人設立届出書は設立の日以後2か月以内に提出する、提出先は税務署と都道府県と市町村に分かれる、といった案内は制度の紹介です。境目は、個別の税額の計算に踏み込むかどうかにあります。
出典No.9204 にせ税理士にご注意(国税庁)
契約する前に、書面に残しておく三つ

ここまでの質問で担当がはっきりしたら、あとはそれが書面に残っているかを見ます。会社設立の依頼は一度きりのことが多く、あとから言った言わないになっても確かめようがありません。見積書か契約書に書かれているかどうかを、契約の前に見ておいてください。

費用については、実費(法定費用)と報酬が分かれているかを見るのがいちばん確実です。登録免許税や定款認証手数料といった実費は、誰に依頼しても、自分で手続きしても同じ額です。ここが報酬と混ざっていると、比べようがありません。
- 「0円」の表示を見たとき誰の報酬が0円なのか、登記の実費と司法書士の報酬は別なのか、顧問契約の月額と最低契約期間はどうなっているのか。この四つが同じ画面にあるかを見ます。
- 「最短で設立」の表示を見たとき何を起点にした日数なのかを確かめます。書類が揃ってからなのか、問い合わせの日からなのかで意味が変わります。
- 結果を保証する表現を見たとき「絶対」「必ず通る」といった言い切りは、許認可のように審査のある手続きではとくに慎重に読んでください。
- 比べる相手が示されない表示「最安」のような表示は、何と比べたのかが示されているかを見ます。景品表示法は、実際よりも著しく有利であると誤認させる表示を禁じています。
書面に残す作業は、依頼先を疑うためのものではありません。あとから読み返せる形にしておくことが目的です。会社設立を扱い慣れた専門家であれば、見積書の段階でこれらは書かれていることがほとんどです。書かれていなければ、追記してもらえるかを尋ねてみてください。
出典景品表示法(消費者庁) 「最安」「No.1」などの表示を扱うときの根拠。
うまくいかなかったときの相談先も、決まっています

最後に、進めている途中で困ったときの相談先も確かめておきます。会社設立の依頼でつまずくのは、たいてい話が進まなくなったときです。そのときに、どこに相談できるのかを知っているだけで、対応が変わります。
- 依頼した士業の対応に困ったとき依頼した専門家が所属する会(都道府県の司法書士会・税理士会・行政書士会・社会保険労務士会・弁護士会)に相談の窓口があります。所属する会は、会員検索で確かめられます。
- 日本司法書士会連合会の相談センター各地の司法書士会が設けている総合相談センターの一覧が公開されています。登記に関する相談の入口になります。
- 税務のことで困ったとき国税庁が税理士制度と、税理士を探す方法を案内しています。税理士情報検索サイトでは懲戒処分等の情報も公開されています。
- 契約や解約でもめたとき国民生活センターと各地の消費生活センターが、事業に関する相談も含めて受け付けています。消費者ホットラインの番号は188です。
国民生活センターは、起業や副業をめぐる消費者トラブルについての調査報告も公開しています。会社設立に限った話ではありませんが、どんな場面で行き違いが起きやすいのかを知っておくと、契約の前に確かめる勘所が分かります。
見積書、契約書、やり取りの記録、支払いの控え。この四つが揃っていれば、どの窓口でも話が早く進みます。会社設立の依頼は書面のやり取りが中心になるので、メールやメッセージの履歴は消さずに残しておいてください。
そして、これは行き違いが起きる前提の話ではありません。会社設立の依頼の大半は、何ごともなく進みます。相談先を知っておくのは、万一のときに時間を無駄にしないためです。備えがあるほうが、依頼する側も落ち着いて進められます。
出典起業・副業をめぐる消費者トラブルの被害救済に関する調査報告(国民生活センター)
まとめ|五つの質問と、その読み方

会社設立の依頼で確かめることを、質問の形にして並べておきます。どれも、答えにくい質問ではありません。
- 登記はどなたが担当されますか司法書士か弁護士の名前が出れば十分です。事務所内でも提携先でも構いません。
- 定款は、どなたが作成されますか資格者が作るのか、本人が入力して作る形なのか。どちらでも構いませんが、分けて理解しておきます。
- 税務のことは、どなたに確認されますか税理士に確認する、という答えが返ってくれば自然な形です。
- どこまでが依頼の範囲ですか登記まで、税務の届出まで、社会保険まで、許認可まで。範囲によって費用も変わります。
- 費用の内訳を教えてください実費と報酬が分かれているか。実費は誰に依頼しても自分で手続きしても同じ額です。
この五つを聞いて、答えが返ってきて、その内容が見積書にも書かれている。そこまで確かめられれば、会社設立の依頼としては十分に準備ができています。あとは、複数の専門家を同じ質問で比べてみてください。同じ質問をすれば、違いがはっきり見えます。
聞いても答えが曖昧だったときは
その場で結論を出す必要はありません。持ち帰って、別の依頼先にも同じ質問をしてみてください。比べれば、どちらが説明を省いているのかが分かります。急かされて決める場面があったとしても、会社設立の日付は自分で決められるものです。焦って決めなければならない理由は、ほとんどありません。
そして、自分で手続きするという選択肢も残っています。本人申請は合法で、法務局が申請書の様式と記載例を公開しています。会計ソフト事業者の会社設立ツールも、本人が書類を作るための道具として使えます。全部を専門家に依頼するか、全部を自分でやるかの二択ではなく、判断が要るところだけ専門家に相談するという組み立ても可能です。
会社設立の依頼先を決めるのは、事務所の良し悪しを見抜く作業ではありません。誰が何を担当するのかを、契約の前にはっきりさせる作業です。ここまでの五つの質問は、そのためのものです。制度も条文も改正されますので、実際に判断されるときは、記事に添えた出典で最新の内容をご確認ください。
出典司法書士総合相談センター一覧(日本司法書士会連合会)
聞くのは五つ。それで進めやすくなります
会社設立の依頼で困るのは、たいてい誰が何を担当するのかが曖昧なまま進んでしまったときです。逆に言えば、担当と範囲さえ最初にはっきりしていれば、進み方はずいぶん楽になります。聞くことは多くありません。登記は誰か、定款は誰が作るのか、税務の質問には誰が答えるのか、範囲はどこまでか、費用の内訳はどうなっているか。この五つです。
そして、こうした質問をされて困る依頼先は、まずありません。登記は提携する司法書士が担当します、定款は当事務所の行政書士が作ります、税務は連携している税理士に確認します。会社設立を扱い慣れた事務所であれば、こうした答えがすぐに返ってきます。むしろ、聞いてもらったほうが説明の手間が省けるという面もあります。
会社設立は、多くの方にとって一度きりの手続きです。分からないことを分からないまま進めても誰の得にもなりません。専門家に依頼する場合でも、自分で手続きする場合でも、担当と範囲をはっきりさせてから動くという順番だけは共通です。判断に迷うところは、それぞれの士業の会や所管の官公署にご相談ください。
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