会社設立で税理士に依頼できる仕事は三つだけ|税理士法2条1項が定める範囲を条文から確かめる
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立を税理士に依頼しようとしていて、どこまでを税理士がやってくれるのか、どこから別の専門家に回るのかの線が見えていない方。
- 税理士事務所のページに「会社設立をまるごとお引き受けします」と書いてあり、登記まで税理士がやるのかどうかを確かめたい方。
- この記事では、特定の事務所を比べたり順位を付けたりはしません。書いているのは、税理士法が税理士の仕事をどう定めているかと、そこから外れる仕事は誰の分野になるのか、という線引きです。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
会社設立で誰に何を頼めるのか、まず線を引く

税理士に会社設立を依頼できるかどうかを考える前に、会社設立でやることがどの専門家の分野に割り振られているのかを見ておくと、話が早くなります。士業の仕事の範囲は、それぞれの法律で定められていて、専門家の側が選べるものではないためです。

税理士の列を縦に見ると、印が付いているのは上の二つだけです。会社設立の依頼で思い浮かぶ登記は、税理士の列では空欄になっています。これは税理士という専門家の力量の話ではなく、税理士法が定める業務の範囲にそもそも入っていない、ということです。
以下、できる・できないと書いているのは、報酬をもらって業として行えるかどうかの話です。会社設立の手続きをご自身で行うことは、どの資格がなくてもできます。本人申請は合法で、現実的な選択肢のひとつです。
出典税理士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項が業務(1号税務代理・2号税務書類の作成・3号税務相談)、3条1項4号が公認会計士の資格、51条が弁護士の通知、52条が業務の制限、59条1項が罰則(2年以下の拘禁刑又は1…
税理士の業務は、税理士法2条1項の三つ

税理士が業として行える仕事は、税理士法2条1項が三つの号に分けて定めています。条文はどれも長いのですが、骨格だけを取り出すと次のようになります。
税理士は、他人の求めに応じ、租税(略)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 税務代理(税務官公署に対する租税に関する法令(略)の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(略)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(略)をいう。)
二 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(略)を作成することをいう。)
三 税務相談(税務官公署に対する申告等(略)又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(略)の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)
読んでいただくと分かるとおり、三つとも「租税に関し」という枠の中にあります。そして相手方は「税務官公署」、つまり税務署や都道府県税事務所、市区町村の税務担当です。

登記は租税の手続きではありません。提出先も税務官公署ではなく法務局です。ですから、どう読んでもこの三つの中には入ってきません。会社設立を税理士に依頼したときに、税理士自身の資格で動けるのは、この三つの範囲までということになります。
出典税理士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項が業務(1号税務代理・2号税務書類の作成・3号税務相談)、3条1項4号が公認会計士の資格、51条が弁護士の通知、52条が業務の制限、59条1項が罰則(2年以下の拘禁刑又は1…
会社設立で、税理士に実際に依頼できること

三つの枠を会社設立の場面に当てはめると、税理士に依頼できるのは大きく二つに分かれます。会社が成立したあとに出す税務の届出と、設立の中身を決めるときの相談です。
- 法人設立届出書設立の日以後2か月以内に、納税地の所轄税務署長に提出します。定款等の写しを添付します。都道府県と市区町村にも同様の届出が要ります。
- 青色申告の承認申請書青色申告をしようとする事業年度開始の日の前日まで、設立初年度は設立の日以後3か月を経過した日と初年度終了の日のうち早いほうの前日までが期限です。
- 給与支払事務所等の開設届出書給与を支払う事務所を設けた場合の届出です。役員報酬を出すなら設立時から関係します。
- 設立の設計についての相談資本金の額、決算期、役員報酬の決め方。登記が終わってからでは変えにくいものがあるため、設立前の相談に意味があります。

法人設立届出書の期限は「設立の日以後2か月以内」です。設立の日は登記を申請した日になりますから、登記が終わらないと税務の届出の準備は始められません。依頼の順番としても、登記が先に来ます。
設立後の記帳と申告を続けて依頼する場合は、顧問契約という形になります。設立のときだけ関わる専門家と、その後ずっと関わる専門家とで、選ぶときに見るところが変わってきます。ここは会社設立の手続きとは別の契約で、月額の顧問料が発生します。設立の依頼と顧問契約をまとめて考えるか、分けて考えるかは選べます。
出典C1-4 内国普通法人等の設立の届出(国税庁)
税理士に依頼できないこと。とくに登記

税理士に依頼できないことのうち、会社設立でいちばん問題になるのが登記です。登記申請の代理も、登記申請書類の作成も、税理士は業として行えません。根拠は税理士法ではなく、司法書士法の側にあります。
司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
同法3条1項1号が「登記又は供託に関する手続について代理すること」、2号が「法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること」を司法書士の業務としています。この二つが73条1項によって、司法書士と司法書士法人以外には禁じられています。違反した場合の罰則は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です(同法78条1項)。
2025年6月1日から、刑法の改正にともなって「懲役」は「拘禁刑」に置き換わりました。いまも「1年以下の懲役」と書いてある記事は、それ以前の条文をそのまま写しているものです。条文を引くときは確認した日付とあわせて見てください。
登記のほかに、税理士の業務から外れるものを挙げると次のようになります。どれも、それぞれ別の専門家の分野です。会社設立を進めるうえでは、複数の専門家が関わることになります。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
それでも「まるごと」と書けるのは、分担しているから

ここまで読むと「税理士事務所が会社設立をまるごと引き受けているのは、まずいのでは」と思われるかもしれません。そうではありません。事務所の中に司法書士がいるか、外部の司法書士と提携していて、登記の部分はその司法書士が担当している、という形になっているのが通常です。

「登記はどなたが担当されますか」と聞けば十分です。相手を試す質問ではなく、依頼の範囲をそろえるための質問です。司法書士の名前や、提携している事務所の話が出てくれば、それが通常の形です。
逆に、資格の説明がないまま「うちで全部やります」とだけ返ってくる場合は、もう一歩聞いてみてください。登記申請書類を税理士が業として作成すれば、先ほどの司法書士法73条1項に触れることになります。依頼する側が確かめておけば防げるところですし、まっとうに分担している専門家であれば、聞かれて困る質問でもありません。
出典会社設立で代行できる手続きとは?専門家に依頼するメリット・デメリットと選び方(freee) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
依頼するときに確かめておくこと

税理士に会社設立を依頼すると決めたら、契約の前に確かめておくとよい項目があります。金額そのものより、どこまでが依頼の範囲なのか、範囲の外はどの専門家に回るのかを先にそろえておくほうが、あとで食い違いにくくなります。

資格そのものは、名簿で確かめられます
日本税理士会連合会が「税理士情報検索サイト」を公開しています。氏名や事務所の所在地から、登録されている税理士・税理士法人を検索できます。登録の有無だけでなく、懲戒処分の有無まで確認できるのがこのサイトの特徴です。国税庁も、税理士を探すときの案内としてこのサイトを紹介しています。
会員検索は、どの専門家を選ぶ場合にも共通して使える確認の手段です。当サイトは特定の事務所やサービスを比較したり、順位を付けたりはしていません。
出典税理士をお探しの方へ(国税庁)
報酬はいくらか。税理士には公的な統計がありません

司法書士と行政書士には、それぞれの全国団体が公表している報酬の統計があります。ところが税理士には、これにあたる公的な報酬統計がありません。かつては報酬規程がありましたが廃止されており、いまは専門家ごとに自由に決められています。

ですから、税理士の報酬について「相場はいくら」と書かれているものを見たときは、その数字がどこから来たのかを確かめてください。公的な統計にもとづくものではありえない、ということだけは言えます。
会社設立の費用は「実費(法定費用)」と「報酬」に分かれます。登録免許税や定款認証手数料といった実費は、誰に依頼しても、自分で手続きしても同じ額です。事務所によって差が出るのは報酬のほうだけです。見積書でこの二つが分かれているかを見てください。
なお、税理士事務所が「設立サポート手数料0円」と案内している場合、多くは顧問契約を前提に設立サポート料を無料にし、登記は提携する司法書士が担当するという組み立てになっています。0円の対象が誰の報酬なのか、登記の実費と司法書士の報酬は別なのか、顧問契約の月額と最低契約期間はどうなっているのか。この四つを並べて、総額で比べてください。
出典税理士に相談する(日本税理士会連合会)
まとめ|三つの枠に入るかどうかで判断できます

会社設立で税理士に何を依頼できるかは、税理士法2条1項の三つの枠に入るかどうかで判断できます。最後に短くまとめます。
- 依頼できるのは三つ税務代理、税務書類の作成、税務相談。会社設立でいえば、法人設立届出書などの届出と、資本金や決算期をどう決めるかの相談です。
- 登記は入らない登記申請の代理も、登記申請書類の作成も、司法書士(および弁護士)の分野です。司法書士法3条1項と73条1項によります。
- 社会保険も許認可も入らない社会保険は社会保険労務士、許認可と定款の作成は行政書士の分野です。ひとつの資格で全部はできません。複数の専門家に分かれるのが普通の形です。
- 「まるごと」は分担している事務所の中か提携で分かれています。この形に問題はありません。確かめるのは「登記はどなたが担当されますか」だけで足ります。
- 報酬に公的な統計はない司法書士・行政書士と違い、税理士の報酬には公表された統計がありません。見積もりを取って比べてください。
- 実費と報酬は別のもの登録免許税などの実費は、誰に依頼しても自分で手続きしても同じ額です。
税理士に依頼する意味がいちばん大きいのは、設立が終わったあとに続く部分だと思います。記帳と申告は毎年続きますし、資本金や決算期の決め方は設立の時点で決まってしまいます。登記だけを見て依頼先を決めるのではなく、その先まで含めて考えると、どの専門家に何を任せたいのかがはっきりしてくるはずです。
制度も条文も改正されます。この記事に書いた内容は2026年9月1日時点で確認したものです。実際に判断されるときは、各セクションに添えた出典で最新の内容をご確認ください。個別の依頼の可否や見積もりの妥当性については、税理士や司法書士といった各分野の専門家に直接ご相談ください。
出典税理士情報検索サイト(日本税理士会連合会) 登録内容のほか懲戒処分の有無も確認できる。
三つの中に入るかどうかで考えてください
税理士に何を依頼できるかは、税務代理・税務書類の作成・税務相談という三つの枠に入るかどうかで決まります。会社設立でいえば、法人設立届出書などの届出と、資本金や決算期をどうするかという相談がここに入ります。逆に、登記も、社会保険の届出も、許認可も、この三つの外にあります。
税理士事務所が「まるごと」と案内している場合、その中身は事務所の中や提携で分担されています。この形そのものに問題はありません。確かめておくとよいのは「全部やってもらえますか」ではなく、「登記はどなたが担当されますか」のほうです。答えに司法書士の名前が出てくれば、それが通常の形です。
なお、会社設立の手続きを自分で行うことは、どの資格がなくてもできます。ここで見た制限は、報酬をもらって業として代わりに行う場合の話です。ご自身の場合にどこまで依頼するのが合うかは、見積もりを取ったうえで、税理士や司法書士に直接ご相談ください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。