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会社設立後に人を雇うと増える手続き|社労士と税理士の分担はどこで分かれるか

公開 約11分(6,429字) 合同会社commit 編集部 一次情報の確認日:2026年9月1日

会社設立後に人を雇うと増える手続き|社労士と税理士の分担はどこで分かれるか

この記事を読んでいただきたい方

  • 会社設立のときはひとりだったけれど、はじめて従業員を雇うことになった方。会社設立のときとは届出の増え方が違う段なので、抜けが出やすいところです。
  • 会社設立のときから税理士とは顧問契約があり、給与のことも社会保険のこともまとめて相談していいのかが分からない方。
  • この記事では、人を雇ったときに出てくる届出をひとつずつ窓口と期限で並べ、どこから税理士の分野で、どこから社会保険労務士の分野になるのかを条文で確かめます。会社設立そのものの手順や、給与の決め方や助成金の話は扱いません。
  • 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。

人を雇った瞬間に、窓口が四つに増える

人を雇うと届出の窓口が四つに増えることを表したイラスト
増えたぶんの窓口は、労働基準監督署と公共職業安定所です。

会社設立の登記が終わったあと、ひとりで事業をしている間は、届出の相手は税務署と年金事務所くらいで済みます。ところが従業員をひとりでも雇うと、そこに労働保険と雇用保険が加わって、やり取りする窓口が四つに広がります。

はじめて人を雇ったときに出す届出と担当できる資格を並べた流れ図

一覧にすると、一番上の一行だけが税務署で、残りは全部それ以外の窓口だということが見えてきます。この一行の切れ目が、そのまま税理士と社会保険労務士という二人の専門家の分担の切れ目になっています。

会社設立のときとは、増え方が違います

会社設立の直後に出すのは、法人設立届出書・青色申告の承認申請書・新規適用届あたりです。人を雇うと、そこに労働保険と雇用保険が丸ごと乗ります。新しく増えた窓口は労働基準監督署と公共職業安定所で、どちらも社会保険労務士の分野です。

出典労働保険の成立手続(厚生労働省) Shift_JIS 配信。

税務の側|給与支払事務所等の開設届出書は税理士

給与支払事務所等の開設届出書を表したイラスト
税務署に出す書類なので、税理士の分野になります。

人を雇って給与を支払うようになると、会社は源泉徴収をする立場になります。その前提として税務署に出すのが、給与支払事務所等の開設届出書です。国税庁の手続案内では、次のように整理されています。

  • どんな手続きか
    給与の支払者が、国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設・移転・廃止した場合に、その旨を所轄税務署長へ届け出るものです。
  • 提出の時期
    開設・移転・廃止の事実があった日から1か月以内
  • 提出先
    給与支払事務所等の所在地の所轄税務署。
  • 手続の根拠
    所得税法230条、所得税法施行規則99条。
  • 誰に依頼できるか
    税務署に提出する届出書なので、税理士法2条1項2号の税務書類の作成に当たります。税理士の分野です。
  • 会社設立のときに出している場合もあります

    役員報酬を出す会社であれば、人を雇う前、会社設立の時点ですでにこの届出を出していることがあります。代表者への役員報酬も給与に当たるためです。すでに出しているかどうかは、会社設立のときに依頼した税理士に確認してみてください。二重に出す必要はありません。

    この届出のほかに、源泉徴収した所得税をいつ納めるかという話も出てきます。原則は毎月ですが、給与を支払う人数が一定以下であれば納期の特例という仕組みがあります。いずれも税務署とのやり取りなので、税理士に依頼できる範囲です。手続きの中身そのものは費用の話とは別なので、この記事では立ち入りません。

    出典A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出(国税庁)

    労働保険の側|保険関係成立届は社労士

    労働保険の保険関係成立届を表したイラスト
    労働者をひとりでも雇えば、労働保険の手続きが生じます。

    労働保険は、労災保険と雇用保険をまとめた呼び方です。労働者をひとりでも雇った時点で、事業主には成立の手続きが生じます。会社設立の直後にひとりで事業をしていた期間には出てこなかった手続きなので、会社設立からしばらく経ってはじめて向き合う方が多いところです。

    厚生労働省が案内している流れでは、まず所轄の労働基準監督署または公共職業安定所に保険関係成立届を出し、そのうえで概算保険料を申告・納付します。期限は次のとおりです。

    • 労災保険に係る保険関係成立届 … 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内、所轄の労働基準監督署へ
    • 概算保険料申告書 … 保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内、所轄の都道府県労働局・労働基準監督署・日本銀行(代理店等を含む)のいずれかへ
    • 雇用保険に係る保険関係成立届 … 保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内、所轄の公共職業安定所へ

    いずれも労働社会保険諸法令に基づく申請書等ですから、社会保険労務士法2条1項1号の作成と、1号の2の提出代行に当たります。社会保険労務士に依頼できる手続きです。税理士や司法書士や行政書士が報酬をもらって代わりに出すことはできません。

    手続きを怠るとどうなるか

    厚生労働省は、指導を受けても成立手続を行わない事業主に対しては行政庁の職権で成立手続と労働保険料の認定決定を行い、さかのぼって保険料を徴収するほか追徴金も徴収する、と案内しています。さらに故意または重大な過失で労災保険に係る保険関係成立届を出していない期間に労働災害が起きた場合は、労災保険給付に要した費用の全部または一部が徴収されることがあります。期限が短く設定されている理由がここにあります。

    出典事業主のみなさまへ 労働保険の成立手続はおすみですか(パンフレット)(厚生労働省) 労働者を一人でも雇えば成立手続が必要

    雇用保険の側|設置届と資格取得届は期限が別

    雇用保険の設置届と資格取得届を表したイラスト
    事業所についての届出と、人についての届出は別物です。

    雇用保険で出すものは二種類あります。事業所についての届出と、雇った人ごとの届出です。ここを混同すると期限を取り違えるので、分けて覚えておくと安全です。

    • 雇用保険適用事業所設置届事業所として雇用保険の適用を受けるための届出です。設置の日の翌日から起算して10日以内に、所轄の公共職業安定所へ提出します。会社としては一度きりの手続きです。
    • 雇用保険被保険者資格取得届雇った人それぞれについて出す届出です。資格取得の事実があった日の属する月の翌月10日までに、所轄の公共職業安定所へ提出します。人を雇うたびに発生します。
    • 提出の前提厚生労働省の案内では、保険関係成立届の手続きを行ったあと、または同時にこれらを行うことになっています。順番があるということです。
    • 依頼できる先どちらも社会保険労務士法2条1項1号・1号の2に当たります。社会保険労務士の分野です。

    会社としての届出は一度で終わりますが、人ごとの届出は人を雇うたびに繰り返し発生します。ここが、社会保険労務士に一度きりで依頼するか、続けて依頼するかを分ける一因になります。従業員が入れ替わる事業であれば、続けて相談できる形にしておくほうが動きやすくなります。

    健康保険・厚生年金保険の側にも人ごとの届出があります

    雇用保険と同じように、健康保険と厚生年金保険にも被保険者資格取得届があります。会社設立の直後に出した新規適用届が事業所についての届出、資格取得届が人についての届出という対応関係です。窓口は年金事務所などで、こちらも社会保険労務士の分野です。

    出典労働保険関係(東京労働局(厚生労働省)) 成立届・概算保険料申告の窓口案内

    社会保険の側|人が増えるたびに届出が出る

    社会保険の資格取得届と算定基礎届を表したイラスト
    一度きりの届出から、繰り返す事務へ変わります。

    健康保険と厚生年金保険については、会社設立の直後にすでに新規適用届を出しているはずです。日本年金機構は、常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用する法人事業所を加入義務のある事業所として案内していますから、代表者ひとりの会社でもこの手続きは済んでいるという前提になります。

    そのうえで人を雇うと、社会保険の側にも届出が加わります。おおまかには次のような流れです。

    1. 雇った人について、健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届を出す
    2. その人に扶養する家族がいる場合は、被扶養者(異動)届もあわせて出す
    3. 毎年、報酬月額を届け出る算定基礎届を出す
    4. 報酬が大きく変わったときは、月額変更届を出す
    5. 退職した人については、被保険者資格喪失届を出す

    会社設立の時点では新規適用届の一枚で済んでいたものが、人が増えると繰り返し発生する事務に変わります。この繰り返しの部分をどうするかが、社会保険労務士という専門家に依頼するかどうかを考えるときの中心になります。会社設立のときの一枚とは性質が違います。届出そのものは一枚ずつ見れば難しくありませんが、期限が細かく、人の出入りに連動するためです。

    給与計算は、資格の話とは別の軸です

    給与計算そのものは、どの資格の独占業務でもありません。社会保険労務士に依頼することも、税理士事務所の業務として頼むことも、社内で行うこともできます。ただし計算の結果が社会保険の届出にも源泉徴収にもつながるため、誰がやるのかを決めておかないと二度手間になりがちです。依頼の範囲を確かめるときは、給与計算をどちらが担当するのかも聞いておくとよい項目です。

    出典健康保険・厚生年金保険の適用関係届書(日本年金機構) 新規適用届を含む事業所適用の届書様式一覧

    条文から見ると、分担はどこで切れているか

    社会保険労務士法と税理士法の業務範囲を表したイラスト
    どちらの法律も、他の法律で制限された事務を外しています。

    ここまでの分担は、事務所ごとの方針で決まっているわけではありません。それぞれの法律が業務の範囲を定めていて、しかも互いに重ならないように書かれているためです。条文で確かめておきます。

    人を雇ったときの届出を社労士・税理士・司法書士・行政書士のどの資格が担当できるかを示した表

    社会保険労務士法2条1項は、1号で申請書等の作成、1号の2で提出手続の代行、1号の3で事務代理、2号で帳簿書類の作成を定めています。労働者名簿や賃金台帳の作成が2号に入るのは、人を雇う場面では覚えておくとよい点です。そして同条4項が「第一項各号に掲げる事務には、その事務を行うことが他の法律において制限されている事務(略)は含まれない」と定め、税務や登記を外しています。

    税理士法の側は2条1項で、1号の税務代理、2号の税務書類の作成、3号の税務相談を定めています。給与支払事務所等の開設届出書は税務署に出す書類ですから2号です。逆に、年金事務所や公共職業安定所に出す書類は税務書類ではありませんので、この三つには入ってきません。

    27条のただし書は、細い例外です

    社会保険労務士法27条には「他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合」というただし書があり、社会保険労務士法施行令2条が、公認会計士が行う公認会計士法2条2項の業務と、税理士が行う税理士法2条1項の業務を挙げています。ただしこれはそれぞれの本来業務に付随する範囲の例外です。労働保険や雇用保険の届出を税理士に任せられる、という読み方にはなりません。実際に誰が担当するのかは、依頼先に確かめるのが確実です。

    出典社会保険労務士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項1号が申請書等の作成、1号の2が提出手続の代行、1号の3が事務代理、2号が帳簿書類の作成。27条が業務の制限。

    まとめて頼めるのか。確かめ方

    依頼の窓口をどう組み立てるかを表したイラスト
    窓口をひとつにするか、分けるかは選べます。

    ここまで読むと「窓口が分かれるなら、いちいち別々に依頼しないといけないのか」と思われるかもしれません。そうとは限りません。会社設立のときと同じで、事務所の中に複数の資格者がいる場合や、外部の専門家と提携している場合は、依頼の窓口をひとつにできます。この形そのものに問題はありません。

    依頼の窓口をひとつにまとめる場合とそれぞれに直接依頼する場合を分けた図

    確かめる言い方は短くて構いません

    「雇用保険の届出はどなたが担当されますか」。これで足ります。相手を試す質問ではなく、依頼の範囲をそろえるための質問です。社会保険労務士の名前や提携先の話が出てくれば、それが通常の形です。逆に、資格の説明がないまま「うちで全部やります」とだけ返ってくる場合は、もう一歩聞いてみてください。

    登録された社会保険労務士かどうかを確かめたいときは、全国社会保険労務士会連合会が公開している都道府県ごとの社会保険労務士会の一覧から、事務所の所在地の会にあたるのが確実です。全国を横断して個人を引ける公式の検索は用意されていません。税理士については日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトがあります。どちらも、特定の事務所を勧めるものではなく、専門家を選ぶときに共通して使える確認の手段として挙げているものです。

    出典各都道府県の社労士会を探す(全国社会保険労務士会連合会) 連合会公式の全国横断の個人検索は存在しない。都道府県会の一覧がこれ。chukidan.jp は民間団体なので公式扱いにしない。

    まとめ|税務署の一行と、それ以外

    人を雇うときの分担のまとめを表したイラスト
    税務署に出す一行と、それ以外。この切れ目が分担です。

    会社設立のあとにはじめて人を雇う場面を、担当の切れ目で整理し直します。

    • 税理士の分野給与支払事務所等の開設届出書(開設の事実があった日から1か月以内、所轄税務署)。税理士法2条1項2号の税務書類の作成に当たります。源泉所得税に関する届出もこちらです。
    • 社会保険労務士の分野(労働保険)保険関係成立届は成立した日の翌日から10日以内、概算保険料申告書は50日以内。窓口は労働基準監督署と労働局などです。
    • 社会保険労務士の分野(雇用保険)適用事業所設置届は設置の日の翌日から10日以内、被保険者資格取得届は資格取得の事実があった日の翌月10日まで。窓口は公共職業安定所です。
    • 社会保険労務士の分野(社会保険)被保険者資格取得届と被扶養者(異動)届、その後の算定基礎届。窓口は事務センターか年金事務所です。
    • どちらでもよいもの給与計算はどの資格の独占業務でもありません。社内で行うことも、依頼することもできます。誰がやるかを決めておくと二度手間が減ります。
    • 依頼の範囲は書面で窓口をひとつにまとめることはできます。確かめるのは「どなたが担当されますか」の一言です。

    会社設立のときにひとりで進められた方であれば、人を雇う段の手続きもご自身で出すことはできます。本人が自分の会社の届出を出すのは合法です。ただ、期限が10日・50日・翌月10日と細かく、人の出入りに連動して繰り返し発生する点は、会社設立のときとは違うところです。ここをどう扱うかで、専門家に依頼するかどうかを考えてみてください。

    この記事の内容は2026年9月1日時点で確認したものです。制度も期限も改正されることがありますので、実際に手続きをされるときは各セクションに添えた出典で最新の内容をご確認のうえ、税理士・社会保険労務士といった各分野の専門家にご相談ください。

    出典社労士に相談する(全国社会保険労務士会連合会) 都道府県会・紛争解決センターなど相談窓口の入口

    四つの窓口を思い浮かべると迷いません

    人を雇うと、書類の数はたしかに増えます。ただ、増えた書類は税務署・年金事務所・労働基準監督署・公共職業安定所の四つの窓口に振り分けられるだけです。税務署に出すものは税理士の分野、残りの三つは社会保険労務士の分野。まずこの大きな分け方を覚えてしまうと、目の前の書類がどちらの専門家の話なのか判断できるようになります。会社設立のときに覚えた分担が、そのまま延長されると考えても構いません。

    そして、依頼先を選ぶときに効いてくるのは金額より範囲です。会社設立のときに依頼した事務所が、人を雇う段でも同じ範囲を見てくれるとは限りません。会社設立の依頼と、人を雇ったあとの依頼は別のものだと考えてください。給与計算はどちらがやるのか、雇用保険の届出は誰が出すのか、源泉徴収は税理士の側に含まれるのか。契約の前に、書面で範囲をそろえておくのがいちばんの近道です。

    ご自身の会社にとってどの組み合わせが合うかは、雇う人数と、会社設立のときから依頼している専門家との関係によって変わります。当サイトでは個別の判断はしていません。実際の手続きの要否と期限は、所轄の税務署・年金事務所・労働基準監督署・公共職業安定所と、依頼を考えている専門家にご確認ください。

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