会社設立で社労士に依頼できる手続き|社会保険労務士法2条1項の四つと27条の線引き
この記事が想定している読者
- 会社設立の登記と税務の手はずは付いたものの、社会保険と労働保険の届出をどこに持っていけばいいのかが分からずに止まっている方。
- 「社労士に依頼できます」と書かれているのを見て、具体的にどの届出までが社労士の担当なのか、条文の裏づけごと確かめておきたい方。
- ここで書くのは、社会保険労務士法が社労士の業務をどう区切っているか、その区切りが会社設立の実務にどう当たるか、という一点です。どの事務所が優れているという話は扱いません。士業のあいだに上下はなく、専門家ごとに担当できる範囲が法律で分かれているだけです。
- 会社設立でやること全体と、士業ごとの線引きをまとめて確かめたい方は、会社設立を誰に頼むかの全体像からお読みください。
会社設立の手続きを、提出先で分けてみる

会社設立の手続きは、書類の名前で覚えようとすると混乱します。似た名前の届出がいくつもあるうえ、提出先がばらばらだからです。まず提出先で分けてしまうと、どの専門家に依頼できるかの見当が付きます。会社設立で関わる専門家は一人ではないからです。

社労士の列に印が付いているのは、上の三行です。いずれも年金事務所か、労働基準監督署か、公共職業安定所に出す書類で、法務局にも税務署にも行きません。逆に、社労士の列が空欄になっている行は、社労士に依頼しても代わりに出してもらうことはできません。
以下で「できる」「できない」と書いているのは、報酬をもらって業として行えるかどうかです。会社設立にともなう届出をご自身の会社の分としてご自身で出すことは、どの資格がなくてもできます。本人で手続きするのは合法で、現実的な選択肢のひとつです。
なお、依頼の窓口がひとつになっている事務所もあります。会社設立を扱う税理士事務所や司法書士事務所が「社会保険まで対応します」と案内している場合、事務所の中に社労士がいるか、外部の社労士と提携しているのが通常の形です。この形そのものに問題はありません。
出典社会保険労務士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項1号が申請書等の作成、1号の2が提出手続の代行、1号の3が事務代理、2号が帳簿書類の作成。27条が業務の制限。
社会保険労務士法2条1項が定める、四つの事務

社労士が業として行える事務は、社会保険労務士法2条1項が号に分けて定めています。会社設立の場面で関係してくるのは、次の四つです。号の枝番まで含めて見ると、書類を作ることと、出すことと、行政機関に対して代理することが別々に定められているのが分かります。
社会保険労務士は、次の各号に掲げる事務を行うことを業とする。
一 別表第一に掲げる労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、再審査請求書その他の書類(略)をいう。以下同じ。)を作成すること。
一の二 申請書等について、その提出に関する手続を代わつてすること。
一の三 労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、再審査請求その他の事項(略)について、又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述(略)について、代理すること(略)。
二 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(略)を作成すること。

大事なのは、いちばん下の2条4項です。ここに「第一項各号に掲げる事務には、その事務を行うことが他の法律において制限されている事務(略)は含まれない」と書かれています。登記が司法書士法で、税務が税理士法で制限されている以上、それらは社労士の業務にそもそも入ってこない、という筋道です。行政書士法1条の3第2項と同じ形の規定で、士業の業務範囲はこうやって重ならないように区切られています。
書類を作ってもらうだけなら1号、窓口に出すところまで任せるなら1号の2、調査や処分の場面で会社の代わりに主張してもらうところまでなら1号の3です。依頼の見積もりを見るときは、この三つのどこまでが範囲に入っているかを確かめてください。「書類作成のみ」と「提出代行まで」では、依頼したあとの手間がまったく違います。
出典社会保険労務士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項1号が申請書等の作成、1号の2が提出手続の代行、1号の3が事務代理、2号が帳簿書類の作成。27条が業務の制限。
会社設立のあとに出す、社会保険の届出

会社設立を終えたあと、社労士に依頼する場面としていちばん多いのが健康保険・厚生年金保険の新規適用の手続きです。日本年金機構は、常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用する法人事業所を加入が義務づけられる事業所として案内しています。従業員を雇っていなくても、法人であれば手続きが必要になるということです。
- 提出する書類健康保険・厚生年金保険 新規適用届。あわせて被保険者資格取得届や、扶養する家族がいる場合は被扶養者(異動)届も出します。
- 提出の時期事実発生から5日以内。会社設立の登記が終わってから短い期間で来るため、依頼するなら先に手はずを決めておくほうが動きやすくなります。
- 提出先事務センター、または管轄の年金事務所。実際に事業を行っている所在地が登記上の所在地と違う場合は、実際の所在地を管轄する側になります。
- 提出の方法電子申請、郵送、窓口持参。社労士に依頼した場合は電子申請で出すことが多くなっています。
- 添付する書類法人事業所の場合は法人(商業)登記簿謄本。提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものという条件が付いています。
新規適用届には法人の登記簿謄本を添えることになっています。登記が完了して登記事項証明書が取れるようになってはじめて、社会保険の届出の準備が整うわけです。会社設立の依頼を組み立てるときは、司法書士の登記が先、社労士の社会保険が後、という順番になります。
この一連の手続きは、社会保険労務士法2条1項1号の申請書等の作成と、1号の2の提出代行に当たります。ですから社労士に依頼できます。逆に、税理士や司法書士や行政書士は、報酬をもらってこれを代わりに出すことはできません。会社設立をまとめて引き受けている事務所であっても、この部分は社労士が担当している形になっているはずです。
出典新規適用の手続き(日本年金機構)
人を雇うと、労働保険と雇用保険の届出が加わる

会社設立のあとに従業員を雇うと、社会保険とは別に労働保険の手続きが加わります。労働保険は労災保険と雇用保険をまとめた呼び方で、窓口が労働基準監督署と公共職業安定所に分かれます。厚生労働省が案内している期限は次のとおりです。

これらもすべて、社会保険労務士法2条1項1号と1号の2に当たる手続きです。社労士に依頼できます。届出の数が多く、期限も10日、50日、翌月10日と刻まれているため、会社設立の直後にひとりで全部を抱えると抜けやすいところでもあります。
厚生労働省は、指導を受けても成立手続を行わない事業主に対しては、行政庁の職権による成立手続と労働保険料の認定決定を行い、さかのぼって保険料を徴収するほか追徴金も徴収すると案内しています。さらに、故意または重大な過失で労災保険に係る保険関係成立届を出していない期間に労働災害が起きた場合は、給付に要した費用の全部または一部が徴収されることがあります。脅すつもりで書いているのではなく、期限が決まっている理由がここにあるということです。
なお、労働保険の手続きが必要になるのは労働者を雇ったときです。代表者ひとりだけの会社であれば、労働保険の対象にはなりません。社会保険(健康保険・厚生年金保険)とは条件が違うので、ここは分けて考えてください。
出典労働保険の成立手続(厚生労働省) Shift_JIS 配信。
27条の業務の制限と、ただし書に置かれた例外

社労士以外の人が、報酬をもらって社会保険や労働保険の手続きを引き受けることは、社会保険労務士法27条で禁じられています。条文はこうなっています。
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。
この27条に違反した場合の罰則は、同法32条の2第1項6号にあります。「一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金」です。司法書士法78条1項や行政書士法21条の2と同じ重さで、税理士法59条1項4号の2年以下より軽い、という位置づけになります。
2025年6月1日に刑法が改正され、「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。いまも「1年以下の懲役」と書かれている記事は、それより前の条文をそのまま引いているものです。条文を引用している記事を読むときは、確認した日付が書かれているかどうかを見てください。
ただし書があるので、線はまっすぐではありません
27条にはただし書があり、他の法律に別段の定めがある場合と、政令で定める業務に付随して行う場合が除かれています。この政令、つまり社会保険労務士法施行令2条は、除かれる業務を二つ挙げています。公認会計士または外国公認会計士が行う公認会計士法2条2項に規定する業務と、税理士または税理士法人が行う税理士法2条1項に規定する業務です。
ですから「社労士以外は絶対にできない」と書き切ることはできません。ただしここで除かれているのは、あくまでそれぞれの本来業務に付随して行う場合です。社会保険の手続きそのものを引き受けて業として行う話とは別物なので、会社設立にともなう社会保険の届出を税理士に任せられる、という意味にはなりません。このあたりは判断が細かいので、実際に誰が担当するのかは依頼先に確かめるのが確実です。
当サイトでは、特定の事務所や代行サービスを名指しして違法だと結びつけることはしていません。書いているのは、依頼する側が確かめられる形です。社会保険の届出まで含む見積もりを受け取ったら、担当するのはどなたですか、と聞いてみてください。社労士の名前や提携先の話が出てくれば、それが通常の形です。
出典社会保険労務士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 2条1項1号が申請書等の作成、1号の2が提出手続の代行、1号の3が事務代理、2号が帳簿書類の作成。27条が業務の制限。
社労士に依頼できないこと。登記と税務

社労士に依頼できないことも、はっきりしています。会社設立の場面でいえば、登記と税務です。どちらも社会保険労務士法2条4項の「他の法律において制限されている事務」に当たり、2条1項各号の事務には含まれません。
ここで押さえておきたいのは、会社設立という一つの出来事に対して複数の専門家が順番に関わるのが普通の形だということです。どの専門家が欠けても手続きは進みません。ひとつの資格で全部を引き受けられる仕組みにはなっていません。窓口をひとつにしたい場合は、事務所の中に複数の資格者がいるか、外部と提携しているかのどちらかになります。
「社会保険の届出はどなたが担当されますか」。これだけで十分です。相手を試す質問ではなく、依頼の範囲をそろえるための質問です。会社設立を扱っている事務所であれば、聞かれて困る質問ではありません。
逆に、資格の説明がないまま「社会保険もこちらで全部やります」とだけ返ってくる場合は、もう一歩聞いてみてください。依頼する側が最初に確かめておけば防げる行き違いですし、あとから追加費用の話になることも減ります。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
依頼する前に確かめること、資格の確かめ方

社労士に会社設立まわりの手続きを依頼すると決めたら、契約の前に確かめておくとよい項目があります。金額よりも先に、どこまでが依頼の範囲かをそろえておくほうが、あとで食い違いにくくなります。

全国をまとめて引ける個人検索は用意されていません
司法書士や税理士には全国団体の会員検索がありますが、社会保険労務士については事情が少し違います。全国社会保険労務士会連合会が公開しているのは都道府県ごとの社会保険労務士会の一覧で、登録者を全国横断で引ける公式の個人検索は用意されていません。実際に確かめるときは、事務所の所在地の都道府県会に問い合わせるか、その都道府県会が独自に公開している検索を使うことになります。
社労士を探そうとして検索すると、民間の団体が運営している名簿が上位に出てくることがあります。公式の窓口かどうかは、運営者の表記で確かめてください。当サイトは特定の事務所やサービスを比べたり順位を付けたりはしていません。会員検索は、どの専門家を選ぶ場合にも共通して使える確認の手段として挙げているものです。専門家の側も、こうして確かめられることを前提にしています。
出典各都道府県の社労士会を探す(全国社会保険労務士会連合会) 連合会公式の全国横断の個人検索は存在しない。都道府県会の一覧がこれ。chukidan.jp は民間団体なので公式扱いにしない。
まとめ|四つの号に当たるかどうかで決まります

会社設立で社労士に何を依頼できるかは、社会保険労務士法2条1項の号に当たるかどうかで判断できます。ここまでの内容を短くまとめます。
- 依頼できるのは四つ申請書等の作成(1号)、提出手続の代行(1号の2)、事務代理(1号の3)、帳簿書類の作成(2号)。会社設立の直後に出てくるものは、ほとんどが1号と1号の2に収まります。
- 社会保険は法人なら必ず関係する日本年金機構は、常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用する法人事業所を加入義務のある事業所として案内しています。新規適用届の提出は事実発生から5日以内です。
- 労働保険は人を雇ってから保険関係成立届は成立した日の翌日から10日以内、概算保険料申告書は50日以内、雇用保険適用事業所設置届は設置の日の翌日から10日以内です。
- 登記と税務は入らない2条4項が「他の法律において制限されている事務」を外しています。登記は司法書士、税務は税理士の分野です。
- 27条にはただし書がある施行令2条が、公認会計士法2条2項の業務と税理士法2条1項の業務に付随して行う場合を除いています。ただし付随する範囲に限られた例外です。
- 罰則は拘禁刑27条違反の罰則は32条の2第1項6号で、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。「懲役」ではありません。
会社設立を依頼する先を決めるときは、登記・税務・社会保険の三つが別の資格の分野であることを前提に組み立ててみてください。窓口をひとつにまとめたいのか、それぞれの専門家に直接依頼したいのかで、選ぶ事務所の形が変わってきます。どちらが正しいということはありません。
この記事の内容は2026年9月1日時点で確認したものです。制度も条文も改正されます。実際に判断されるときは、各セクションに添えた出典で最新の内容をご確認のうえ、社会保険労務士をはじめとする各分野の専門家に直接ご相談ください。
出典社労士の仕事(全国社会保険労務士会連合会)
届出の名前で判断するのがいちばん早い
会社設立の周辺で出てくる書類は数が多いので、名前だけでは誰の担当か見分けにくくなります。困ったときは提出先で切ってみてください。年金事務所と労働基準監督署と公共職業安定所に出すものは社労士、税務署に出すものは税理士、法務局に出すものは司法書士。この三つの窓口を覚えておくと、どの専門家に依頼すればよいかの見当がだいたい付きます。
そして、社労士に依頼できるかどうかは、社会保険労務士法2条1項の号のどれかに当たるかどうかで決まります。申請書等を作るのが1号、出す手続を代わってするのが1号の2、行政機関に対して代理するのが1号の3、帳簿書類を作るのが2号。会社設立の直後に出てくるものは、ほとんどが1号と1号の2に収まります。
会社設立の手続きをご自身で進めることは、どの資格がなくてもできます。この記事で見た制限は、報酬をもらって業として代わりに行う場合の話です。ご自身の会社でどこまでを依頼するのがよいかは、事業の規模と人を雇う予定によって変わります。都道府県の社会保険労務士会の窓口や、実際に依頼を考えている専門家に、事情を伝えたうえでご相談ください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。