会社設立は誰に頼む?登記・税務・社会保険・許認可で、担当できる専門家は決まっています
この記事は、こういう方に向けて書いています
- 会社設立をどこかに依頼したいけれど、税理士・司法書士・行政書士のどこに声をかければよいのかが分からず、比較サイトを何枚も開いたまま止まっている方。
- 「登記も税金も社会保険もまとめてお任せ」という案内を見て、本当に一か所で全部やってもらえるのかを確かめたい方。
- 逆に、この記事は「いちばん安い依頼先はどこか」を探している方には向きません。特定の事務所やサービスを比べて順位を付けることはしていません。書いているのは、どの資格の専門家に何を頼めるのかという線引きと、その根拠になっている条文までです。
会社設立で誰に何を頼めるのか、先に一覧で確かめる

会社設立の依頼先を調べはじめると、税理士事務所も司法書士事務所も行政書士事務所も、それぞれが「会社設立をお任せください」と書いています。どこも同じことをしてくれるように見えるので、迷って当然だと思います。
けれども実際には、それぞれの士業が業として行える仕事の範囲は法律で決まっています。得意不得意の話ではなく、資格がなければその仕事を報酬をもらって引き受けること自体ができません。まずはその線引きを、一覧で見てしまうのが早いはずです。

この表で見てほしいのは、縦にも横にも空欄があることです。どの資格にも「できない」がありますし、どの仕事にも「頼めない相手」がいます。会社設立をひとつの窓口に依頼するとしても、その裏では複数の専門家が分担している、というのが実際のところです。
以下、「できる・できない」と書いているのは、報酬をもらって業として行えるかどうかの話です。会社設立の手続きを自分で行うことは、どの資格も持っていなくてもできます。本人申請は合法で、現実的な選択肢のひとつです。
出典司法書士法(e-Gov法令検索(デジタル庁)) 3条1項1号〜5号が業務、同条8項が他法律による制限、73条1項が非司法書士の禁止、78条1項が罰則(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)。
やることを四つに分けると、頼む相手が見えてくる

会社設立という言葉でひとまとめにされていますが、中身は性質の違う手続きの集まりです。依頼先を考えるときは、次の四つに分けてしまうと整理しやすくなります。

- 登記会社を法的に成立させる手続き。法務局に申請します。これができないと会社は存在しません。申請の代理ができるのは司法書士と弁護士だけです。
- 税務の届出設立後に税務署・都道府県・市町村へ出す届出。法人設立届出書、青色申告の承認申請、給与支払事務所等の開設届出書など。税理士の分野です。
- 社会保険・労働保険の届出健康保険と厚生年金の新規適用、労働保険の保険関係成立。法人は代表者ひとりでも社会保険の対象になります。社会保険労務士の分野です。
- 許認可建設業、飲食業、古物商、人材紹介など、営業そのものに行政の許可が要る業種の申請。行政書士の分野です。
この四つのうち、会社設立の依頼としてまず思い浮かぶのは登記だと思います。ところが、登記だけを済ませても会社は動きません。税務の届出には期限がありますし、人を雇うなら社会保険の手続きも要ります。許認可が必要な業種であれば、それが下りるまで営業できません。依頼先を考えるときは、登記のあとに続くところまで見ておくと迷いが減ります。
デジタル庁の法人設立ワンストップサービスを使うと、定款認証・設立登記から税・年金・労働保険の届出までをまとめて申請できます。ただしこれは本人が申請するための仕組みで、これが代理をしてくれるわけではありません。
出典法人設立ワンストップサービス(デジタル庁) 旧URL app.houjin-portal.go.jp は存在しない。ドメイン直下は404なのでフルパスで書く。
登記の代理ができるのは司法書士と弁護士だけ。その根拠

会社設立の依頼で、いちばん間違えられやすいのがここです。登記申請の代理を業として行えるのは、司法書士と弁護士に限られます。行政書士も税理士も、報酬をもらって登記を代理することはできませんし、登記申請書類を作成することもできません。
司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること。(略)
五 前各号の事務について相談に応ずること。
そのうえで、司法書士法73条1項が「司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない」と定めています。この規定に違反した場合の罰則は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です(同法78条1項)。
2025年6月1日から、刑法の改正にともなって「懲役」は「拘禁刑」に置き換わりました。いまも「1年以下の懲役」と書いている解説は、それ以前の条文をそのまま写しているものです。条文を引くときは、確認した日付とあわせて見てください。
では弁護士はなぜ登記を代理できるのか、というと、73条1項のただし書が「他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」としているためです。弁護士法3条1項が、弁護士の職務を「一般の法律事務」と広く定めており、これが「別段の定め」に当たります。実務では会社設立の登記を弁護士に依頼することは多くありませんが、出資や株主間の取り決めが複雑な場合には相談先になります。

なお、会社設立の登記を自分で申請するのは自由です。法務局は申請書の様式と記載例を公開していますし、完全オンライン申請にも対応しています。ここで見た制限は、あくまで他人の依頼を受けて報酬をもらい、業として行う場合の話です。
出典司法書士の業務(日本司法書士会連合会)
税理士に会社設立の何を依頼できるのか

税理士の業務は、税理士法2条1項が三つに分けて定めています。税務代理、税務書類の作成、税務相談の三つです。会社設立まわりでいえば、設立後に出す届出の作成と提出、そして設立の設計についての税務上の相談がここに入ります。
会社設立を税理士に依頼する利点は、この三つ目にあります。資本金の額、決算期、役員報酬の決め方は、設立したあとの税負担に効いてきます。登記が終わってからでは変えにくいものもあるため、設立の設計段階から相談できるのは実務上の意味があります。
税理士事務所のページに「会社設立をまとめてお引き受けします」と書かれていることがありますが、登記の部分は提携する司法書士が担当しています。税理士が登記申請書類を作成すれば非司法書士行為に当たります。依頼するときは「登記はどなたが担当されますか」と確かめておくと、あとで齟齬が起きません。
また、社会保険と労働保険の届出も税理士の業務ではありません。こちらは社会保険労務士の分野です。設立後に人を雇う予定があるなら、税理士とは別に社会保険労務士への依頼が要るかどうかを、早めに確かめておいてください。
なお、税理士には司法書士や行政書士のような公表された報酬の統計がありません。設立サポートの料金は事務所ごとに開示されているものを見比べるしかない、というのが前提になります。顧問契約とセットで設立サポートを無料にしている事務所も多く、この場合は月額と最低契約期間まで含めて総額で考える必要があります。
出典No.9203 税理士制度について(国税庁) Shift_JIS 配信。
行政書士に会社設立の何を依頼できるのか

行政書士の業務は、行政書士法1条の3第1項が「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」と定めています。定款は権利義務に関する書類なので、その作成は行政書士に依頼できます。公証役場での定款認証の手続きも扱えます。
改正により、業務を定める条は1条の2から1条の3へ、代理などを定める条は1条の3から1条の4へ繰り下がっています。現行の1条の2は「職責」の条です。古い解説の条番号をそのまま引くと、いまの条文とずれます。
そのうえで、同条2項が重要です。ここに「行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」と書かれています。登記申請書類の作成は司法書士法で司法書士の業務とされているため、これに当たります。
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(略)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
行政書士に会社設立を依頼する意味がいちばん大きいのは、許認可が必要な業種の場合です。建設業、飲食業、古物商、産業廃棄物、運送業といった許認可は行政書士の分野で、会社の事業目的の書き方が許認可の取得に影響することもあります。定款をつくる段階から許認可を見据えて相談できるのは利点です。

出典行政書士の業務(日本行政書士会連合会)
社会保険労務士・弁護士・公認会計士の出番はどこか

会社設立の依頼先としては表に出にくい三つですが、場面によっては最初に相談すべき相手になります。
社会保険労務士|人を雇うなら早めに
社会保険労務士の業務は、社会保険労務士法2条1項が定めています。労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成、提出手続の代行、事務代理です。健康保険・厚生年金保険の新規適用届、労働保険の保険関係成立届、雇用保険の適用事業所設置届が、会社設立に続く代表的な手続きです。
従業員を雇っていなくても、法人であれば健康保険と厚生年金の強制適用事業所になります。「人を雇っていないから関係ない」ということにはならないので、設立後の手続きとして頭に入れておいてください。
弁護士|出資や株主間の取り決めが複雑なとき
弁護士は法律事務全般を職務としており、会社設立の登記の代理もできます。税務についても、所属弁護士会を経て国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内で税理士業務を行えます(税理士法51条1項)。共同創業で持分の設計が複雑な場合や、投資を受ける前提で株主間の取り決めを整えたい場合は、依頼先の候補になります。
公認会計士|設立の場面ではほとんど出番がありません
公認会計士法2条1項が定める業務は、財務書類の監査または証明です。会社設立の段階でこれが必要になることは、まずありません。公認会計士が税務を扱う場合は税理士登録が要りますが、無条件に登録できるわけではなく、税理士法3条3項により、財務省令で定める税法に関する研修を修了していることが条件になっています。

出典社労士の仕事(全国社会保険労務士会連合会)
「まとめて頼める」に見える事務所は、中で誰が担当しているのか

ここまで見てきたとおり、ひとつの資格で会社設立の全部を担当することはできません。それでも「まるごとお任せ」と案内している事務所があるのは、事務所の中に複数の資格者がいるか、外部の専門家と提携しているからです。
この形そのものは、まったく問題のないものです。依頼する側にとっては窓口がひとつで済むので、むしろ楽になります。ただし、確かめておいたほうがよいことがいくつかあります。
- 登記は誰が担当するのか提携先の司法書士なのか、事務所内の司法書士なのか。名前まで聞く必要はありませんが、司法書士が担当することは確かめておいてください。
- 費用の内訳が分かれているか見積書で、実費と各専門家の報酬が分かれているかを見ます。ひとまとめの金額だと、あとで何が追加になるのかが分かりません。
- どこまでが依頼の範囲か登記までなのか、税務の届出まで含むのか、社会保険の届出も入るのか。許認可は別料金になっていることがほとんどです。
- やり取りの窓口はひとつか複数の専門家に分かれる場合、こちらが個別に説明して回るのか、窓口がまとめてくれるのか。ここは進めやすさに直結します。

多くは、税理士事務所が顧問契約を前提に設立サポート料を無料にし、登記は提携する司法書士が担当するという組み立てです。誰の報酬が0円なのか、登記の実費と司法書士の報酬は別なのか、顧問契約の月額と最低契約期間はどうなっているのか。この四つを並べて、総額で比べてください。
出典会社設立で代行できる手続きとは?専門家に依頼するメリット・デメリットと選び方(freee) 実務上の運用と料金の目安の補助として使う。法解釈の出典には使わない。
報酬はいくらか。幅と、その出どころ

会社設立を依頼したときの報酬は、事務所によって差があります。単一の金額を相場として示すことはできませんが、士業の全国団体が公表している統計があるので、幅としてなら確かめられます。

行政書士については、日本行政書士会連合会の報酬額統計調査(令和7年度)に「会社設立手続」という項目があり、平均106,371円、最頻値110,000円、最小7,000円、最大550,000円(回答287件)となっています。10万円台に4割が集まる一方で、5万円を切るものも、30万円を超えるものもあります。
司法書士については、日本司法書士会連合会が2024年3月に実施したアンケートがあります。ただしこちらは特定の設例に対する回答で、発起人2名・資本金500万円の株式会社の発起設立について、定款・議事録その他の書類の作成、定款認証の手続き、登記申請の代理まで含めた場合の平均が107,887円(有効回答932件)です。前提が変われば金額も変わります。
行政書士の統計に株式会社と合同会社を分けた項目はありません。会社設立手続として一括の数値だけです。また、司法書士のアンケートに地区別の相場を示す表はありません。「地域によって相場が違う」という説明を見かけますが、いまの一次情報からは裏が取れません。
そして繰り返しになりますが、税理士には公的な報酬の統計がありません。設立サポートの料金や顧問料は、各事務所が公開しているものを見比べることになります。顧問料は事業の規模や訪問の頻度で変わるため、見積もりを取って確かめてください。
出典報酬額の統計(日本行政書士会連合会) 令和7年度報酬額統計調査(令和8年1月実施)。消費税を含み立替金は含まない。会社設立手続は回答者287/平均106,371円/最小7,000円/最大550,000円/最頻値110,…
まとめ|依頼先は、頼みたい仕事から決まります

会社設立を誰に依頼するかは、事務所の良し悪しを比べる前に、頼みたい仕事の種類でおおよそ決まります。ここまでの内容を短くまとめます。
- 登記をしてほしい司法書士へ。弁護士も代理できますが、実務では司法書士が一般的です。
- 設立後の税金を見てほしい税理士へ。法人設立届出書などの税務の届出と、記帳・申告の顧問。
- 営業に許認可が要る行政書士へ。定款の事業目的の書き方から相談できます。
- 人を雇う社会保険労務士へ。法人は代表者ひとりでも社会保険の対象です。
- 出資や株主の設計が複雑弁護士へ。登記の代理も税務も条件つきで扱えます。
- 自分で手続きしたい本人申請は合法です。法務局が様式と記載例を公開しています。
複数に当てはまる場合は、いちばん重いものから声をかけてください。会社設立を扱い慣れた事務所であれば、そこから先の分担はあちらで組み立ててくれます。依頼する側が全部の専門家を自分で探して回る必要はありません。
最後に、資格そのものを確かめる方法
依頼先を決める前に、その相手が本当に登録された有資格者かどうかは確かめられます。各士業の全国団体が名簿の検索を公開しているので、事務所名や氏名で引いてみてください。これは特定の事務所を勧めるものではなく、どの依頼先を選ぶ場合にも共通して使える確認の手段です。

会社設立は、多くの方にとって一度きりの手続きです。だからこそ、誰に何を頼めるのかという線引きだけは先に押さえておいてください。そこさえ分かっていれば、案内の言葉に迷わされることは少なくなるはずです。制度も統計も改正・更新されますので、実際に判断されるときは、記事に添えた出典で最新の内容をご確認ください。
出典司法書士検索(日本司法書士会連合会) 旧ドメイン kensaku.shiho-shoshi.or.jp は証明書のホスト名不一致で使えない。
迷ったら、頼みたい仕事のほうから決めてください
会社設立の依頼先で迷うのは、「誰がいちばん良いか」から考えはじめるからだと思います。士業には得意分野の差はありますが、それ以前に、法律でできる仕事の範囲そのものが分かれています。登記をしてほしいなら司法書士、設立後の税金を見てほしいなら税理士、営業に許認可が要るなら行政書士、人を雇うなら社会保険労務士。この対応さえ押さえておけば、最初の一本の電話をどこにかければよいかは決まります。
そして、複数の専門家に頼むことになっても、依頼する側が何度も同じ説明をして回る必要はありません。会社設立を扱い慣れた事務所であれば、提携先との連携はあちらで組み立ててくれます。確かめるべきなのは「全部やってくれますか」ではなく、「登記はどなたが担当されますか」のほうです。
なお、会社設立を自分で手続きするのも、まったく問題のない選択肢です。本人が申請する限り資格は要りません。ここで挙げた線引きが効いてくるのは、あくまで報酬をもらって業として代わりに行う場合の話です。時間をかけられるか、許認可が要るか、設立後に顧問を付けるか。そのあたりを並べて、依頼するかどうかを決めてください。判断に迷うところは、それぞれの専門家に直接ご相談ください。
この記事は、依頼先を考えるのに役に立ちましたか。